民法295条(留置権の内容)
【解説】
1.留置権とは
留置権というのも、担保物権の一種です。
この留置権はどういうものかというのを説明するにあたっては、非常に分かりやすい例があります。
たとえば、自転車を修理に出したいと思ったとしましょう。自転車屋は、当然自転車を預かった上で修理します。そして、自転車屋は、修理した上で、それを依頼者に返すわけですが、修理代金を支払ってもらわないといけません。自転車屋としては、この修理代金を確実に支払ってもらいたい、つまり修理代金債権を被担保債権として、修理代金の保全を図りたいわけです。
そのとき、みなさんが自転車屋ならどうしますか?これは、自転車屋としては、都合のよいことに自転車が自分の手元にあります。それを利用して、修理した自転車を引き取りにきた依頼者に、「修理代金を払わないと自転車は返せません」と言えば、いいわけです。
この自転車屋の権利を留置権というわけです。つまり自転車という自分が占有している物に関して生じた債権について、その債権を被担保債権として、その自転車を返さない、すなわち物を自分の手元に「留」め「置」く権利が留置権です。これで留置権というものがどういうものか理解できたと思います。
他の例として、AがBに家屋を賃貸したとします。Bは、この家に住んでいたんですが、あるとき雨漏りがしたので、大家さんのAに修繕してもらおうとしたのですが、あいにくAは旅行中だったので、やむなく自分で修理しました。
まず、確認ですが、この雨漏りの修理は、本来家主がやるべきことで、借家人が行った場合は、家主に対して「必要費の償還請求」というのができます。
そして、Aはこの雨漏りの修理代を確実に払って欲しいので、自分が今賃借人として建物を占有しているわけですからこれを利用して、必要費の償還請求権を被担保債権として、これを支払ってくれるまでは、建物を返しませんと留置権を行使すればいいわけです。
もちろん、賃貸借の存続期間中は、どのみち賃借人が占有しているわけですから、賃貸借の終了時に行使することになります。これが留置権です。
以上の説明から分かりますように、留置権は動産についても不動産についても成立しえます。
2.占有が不法行為によって始まった場合(第2項)
第2項は、占有が不法行為によって始まった場合の留置権の成立を否定する。
これは、当然のことで、たとえば人のものを盗んだ者がその盗品を修繕した場合、その修繕費を被担保債権として留置権を認め、所有者からの返還請求を拒絶することを認めるというのはおかしな話です。
この占有が「不法行為によって始まった」という点については、いろいろ争いがあります。
占有が不法行為によって「始まった」というからには、占有が無権限で始まった場合が該当することは間違いありません。
しかし、占有の開始時には適法な占有であったが、その後権限を失った場合はどうか。
たとえば、賃貸借契約が賃借人の賃料の不払によって債務不履行解除された場合、解除後も占有を続け必要費等を支出した場合に、その必要費の償還請求権を被担保債権として留置権を行使できるのか、ということです。
判例は、このような場合には留置権の主張を認めていません。このような債務不履行をした者に、留置権を認める必要はないということです。
逆に、留置権を「適法」に行使している間に、さらに債権が発生したとします。留置権を行使している間に再度、雨漏りが発生したとでも考えて下さい。この場合も留置権は認められます。これは適法な占有中の債権だからです。