民法187条(占有の承継)
【解説】
この「占有の承継」というのは、取得時効との関係で問題になります。
これが結構ややこしいというのか、混乱するわけです。たとえば、今Aが所有する土地に、Bが占有の開始時に善意無過失で勝手に入り込んでいたとします。占有開始から8年目に、この土地を自己の土地としてCに売却してCが占有を開始し始めましたが、Cは占有開始時には悪意で、3年間占有しました。さて、CはAの土地を時効取得できるでしょうか?
このような問題が、占有の承継の問題です。つまり、占有がBからCへ承継(引き継がれている)されているんですね。
こういう場合にどうするかというと、民法は「占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。」と規定しています。
つまり、占有を引き継いだ者は、自分の占有期間だけを主張してもよいし、前の占有者の占有期間も併せて主張してもよい(前の占有者が複数いても、その全部の占有を合計して主張してもよい)。ただ前の占有者の占有期間も含めて主張するときは、その瑕疵(つまり悪意や過失)も引き継ぎますよ、というわけです。
要するに、自分に有利な方を選べばよいのです。
単純に考えれば、占有期間は長い方がよいので、前の占有者の占有期間も併せて主張した方が有利に決まっているじゃないか、と思われる方もおられるかと思いますが、一概にはそうとは言えません。
たとえば、Aの土地を、Bが占有し、Cが引き継いだという事例で、Bが占有の開始時に悪意で、8年間占有し、Cがその後で善意無過失で占有を開始し、10年間占有したという場合、Cは前主の占有期間を合わせて主張すれば、18年間占有していることになりますが、Bの悪意という瑕疵も承継するので、悪意の場合の時効期間である20年に足りません。
そんな面倒なことをしなくても、自分の占有期間だけを主張すれば、占有の開始時が善意無過失なので、10年間で取得時効完成です。以上で、民法の規定は理解していただけましたでしょうか?
この占有の承継の問題は、実にいろいろなパターンが考えられます。そういう場合でも、足もとがグラグラせず、しっかり確実に理解する必要があります。そこで、こういう場合の問題の対処の仕方をこれから説明しましょう。
それを説明する前提として、以下の事例で時効が成立しているかどうか、一度考えてみて下さい。事例は、A所有の土地を、Bが占有し、Cがその占有を受け継いだという場合です。善意無過失、悪意というのは占有開始時です。
①B:悪意で8年占有、C:善意無過失で3年占有
②B:善意無過失で8年占有、C:悪意で3年占有
さあ、どうでしょうか?①から見ていきましょう。①では、Cは自分の占有だけでは、とうてい時効期間が足りないので、Bの占有期間も併せて主張します。それだと10年は超えますが、Bの悪意も引きずってしまうので、20年に足りず、取得時効は不成立となります。それでは、Cはあと何年占有すれば取得時効が成立するでしょうか?9年と答えてはダメですよ。7年です。Cは善意無過失ですので、自己の占有だけを主張すれば、7年占有すれば、10年の取得時効を主張できます。これは前に説明した通り。
次は、②です。これは意外に間違える人が多いのではないですか。取得時効成立です。これがちょっと分かりづらいと思います。Cは自己の占有期間だけでは足りないので、Bの占有期間も併せて主張します。これで11年で時効取得します。Bの占有は、善意無過失ですので、瑕疵はありません。
でも、Cは悪意なので、それでいいの?ということですが、いいんです。これは、ちょうどBが一人でずっと11年間占有している場合で、8年目に悪意になった場合と同じように考えて下さい。
上図を見て下さい。BからCへ占有が移った様子を図にしているわけですが、Cは一方で自己固有の占有をしています。これが図の上です。
他方、CはBから承継した占有もしているわけです。それが図の下の方の線です。この下の方の線というのは、Bの占有を引き継いでいる一本の占有です。ここを理解してほしいんです。
上の線は、Cだけの占有で短い。下の線は、Bから受け継いだ占有で、長い一本です。Cはこの二本の占有を持っていて、自分の都合のよい方を主張すればよい。
そして、下の線は長い一本の線ですから、この占有が善意無過失なのかどうかというのは、最初、つまりBの占有開始時で決めます。途中でCが占有を受け継いでも、一本の線なので、一人の占有中に途中で悪意に変わった場合と同様に考えます。この二本の線を意識して問題を解けば、必ず解けます。