民法183条(占有改定)
【解説】
1.占有改定
本条は、観念的な占有権の譲渡方法の一つである占有改定についての規定です。
占有改定とは、占有権の譲渡人が、引き続き物の所持をしながら、意思表示のみで譲受人に占有権を譲渡する方法です。
この場合、譲渡人は、譲受人の占有代理人として物を占有するわけです。
要するに、物は譲渡人の手元に残しながら、占有権を譲渡します。
これは、一旦現実の引渡しをして、再度譲受人がさらに物を引き取るというような無用な手続を省略するためです。
具体的には、売主が、引き続き物を所持しながら買主に譲渡するような場合です。
この占有改定は、譲渡担保などでよく利用されます。AがBに対して金銭を貸し付けるに当たって、B所有の工場の機械に譲渡担保を設定し、その後もBがその工場の機械を賃借し、使用し続けるような場合です。
ところで、占有改定というのは以上のような内容ですが、私はこの条文を最初に読んだときは、全然意味が分かりませんでした。分かりにくい条文だと思います。
「代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。」という文言です。
たとえば、Aが所有者で、Bを買主として売買契約を締結したとします。そして、売買契約締結後もAが物を所持していて、占有改定による引渡しをしました。
本条で、「代理人」というのは、占有代理人のことで、Aを指します。「本人」というのは、Bのことを指します。
2.民法178条(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)との関係
このように、占有改定というのは、物が全然動かずに観念的に占有権の譲渡がなされるので、動産に関する物権変動の対抗要件である「引渡し」(民法178条)のなかに、この占有改定を含めるべきかが問題になります。
これは、判例も通説も、民法178条「引渡し」のなかに占有改定も含めます。
これをいくら否定しても、一旦現実に引渡しを行い、再度譲渡人に占有を移転すれば、結局は同じであり、いたずらに手続を煩雑にするだけだからです。