民法182条(現実の引渡し及び簡易の引渡し)
【解説】
1.現実の引渡し(第1項)
占有権の譲渡の方法はいくつかありますが、原則はこの「現実の引渡し」になります。
これはいわば普通の占有権の譲渡で、物を引き渡すということです。
ただ、これは当事者の占有権移転の意思表示と引渡によって効力が生じるとされます。
「合意+意思表示」ということです。
占有権も物権ですから、民法176条の意思主義により、本来は意思表示だけで効力が生じそうなんですが、この「現実の引渡し」については、「引渡し」という行為が必要になります。
具体的には、この現実の引渡しは、動産ではあれば、手渡しで引き渡すということです。
不動産では、家屋などはカギの引渡しをもって、この現実の引渡しがあったものとされます。
2.簡易の引渡し(第2項)
占有権の譲渡は、第1項の「現実の引渡し」が基本になりますが、他にも観念的(物が動かないという程度の意味です)に意思表示だけで占有権を譲渡する方法の一つとして、この「簡易の引渡し」というのがあります。
これはすでに占有権の譲受人が占有物を所持している場合に、意思表示だけで占有権を譲受人に移転する場合です。
たとえば、賃借人が賃借物を譲り受けたり、質権者が質物を譲り受けたりする場合です。
このような場合に、賃貸人が一旦賃借物を取戻して、さらに賃借人に現実の引渡しをしなければ占有権が移転しないというのは迂遠なので、このような簡単な方法が認められているわけです。
3.占有権の譲渡方法のまとめ
ここでは、占有権の譲渡方法についてまとめてみよう。
占有権の譲渡には、その原則として「現実の引渡し」があります。
これに対して、観念的な占有権の移転として、「簡易の引渡し」「占有改定」「指図による占有移転」があります。
この観念的な占有移転というのは、分かりにくいと思いますが、「観念的」というのは、「頭で考えて」というような意味ですから、観念的な占有移転というのは、実際には物は動かないが、頭の中で(つまり、当事者の意思表示のみで)占有を移転させる方法です。
「現実の引渡し」が、実際に物が動くのに対して、観念的な占有移転では、物は動かず、当事者の意思表示のみで占有権を譲渡します。
このように物を動かさずに占有を移転するということは、物の所在位置によって3通りの方法が考えられるわけです。
まず、譲渡人のもとに物があって、その状態のまま譲受人に占有を移転する場合です(占有改定)。 →民法183条
次に、最初から譲受人の所持のもとにある物を、そのまま譲受人の意思表示により譲受人に占有を移転する場合です(簡易の引渡し)。 →民法182条2項
パッと考えると、この2つですが、まだありますよね。第三者の所持のもとにある物を、そのままの状態で意思表示だけで譲渡人から譲受人に移転する方法です(指図による占有移転)。 →民法184条