物権
【解説】
1.物権の性質
(1)対世権
物権というのは、物を直接支配できる権利であるから、基本的にすべての人に対して権利を主張することができます。これを対世権(たいせいけん)といいます。
これに対して債権というのは、特定の人に対して一定の行為を請求できる権利にすぎませんので、債務者に対してのみ主張できるのが原則です。
(2)排他性
一つの物の上には、同一内容の物権は成立しません。これを排他性といいます。
たとえば、ある不動産についてAが所有権を取得すれば、Bはその不動産の所有権を取得することはできません。
ただ、これは一つの物の上に「同一内容」の物権が成立しないということであって、種類の異なる物権は成立します。
A所有の不動産の上に抵当権を設定するような場合です。
なお、抵当権については、同一の不動産について複数設定することができますが、このときは1番抵当、2番抵当というように順位が異なりますので、同一内容の抵当権とはいえません。
これに対して、債権については同一内容の債権が複数併存することができます。
よく挙げられる例は、同じ俳優が同一日時の出演契約を複数の興行主と契約するような場合です。体は一つしかないので、一方に出演すれば、他方は債務不履行になります。
この場合でも、債権は両方成立している。成立しているからこそ、出演できなかった方は「債務」不履行になるわけです。
2.物権の効力
(1)優先的効力
物権というのは、物を直接に支配できる排他的な権利である。このことから、物権には優先的効力がある。
①債権に対する優先的効力
同じ内容の物権と債権が同じ物の上に成立するときは、原則として物権が優先します。
ただ、これには例外があって、対抗力を備えた不動産賃借権については、賃借権は債権であるにもかかわらず、不動産賃借権が優先します。
②物権相互間の優先的効力
これに対して互いに相容れない物権相互間においては、原則として先に対抗要件を備えた方が優先します。
対抗要件は、不動産は登記(177条)、動産は引渡し(178条)になります。
もちろん、これにも例外があって、先取特権などは、その先取特権の種類の性質から優劣が決定されています。
(2)物権的請求権(物上請求権)
物権というのは、物を直接に支配できる排他的な権利ですから、その物権が侵害された場合、あるいは侵害されようとしている場合には、物権を有する者は、侵害者に対してその侵害の廃除又は侵害に対する予防措置、場合によっては損害賠償を請求することができます。これを物権的請求権といいます。
この物権的請求権は、①返還請求権、②妨害排除請求権、③妨害予防請求権の3つがある。
①返還請求権
これは、物権を有する者が、全面的に占有を失った場合である。
たとえば、他人が全く権限なく物を持ち去った場合などです。
②妨害排除請求権
返還請求権は、物権者が占有を全面的に失った場合であるのに対して、占有を全面的に失ったとはいえないが、円満な物の支配が妨げられている場合です。
③妨害予防請求権
物権に対する侵害が、まだ現実のものではなく、将来妨害が発生するおそれのある場合に認められるものです。