民法115条(無権代理の相手方の取消権)
【解説】
この取消権は、相手方から無権代理行為を取り消すことです。
この相手方の取消権については、その行使について覚えておかないといけないことがあります。それは、取消権は「本人が追認をしない間」に行使しなければならないということです。
本人が追認してしまえば、その無権代理行為は有効になってしまうので、取消権は、それまでに行使しなさい、ということになります。
ただ、本人が何ら意思表示をしない間に、相手方が取消権を行使すれば、契約は取り消されるわけですから、契約の効果は生じず、本人も追認できなくなります。
これは、言葉を変えると、本人の追認権と、相手方の取消権は、「早い者勝ち」ということになります。
ところで、第113条2項で「追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。」という規定があります。
これは、今説明した本人の追認権と相手方の取消権は早い者勝ち、という話を読んだ後では、この規定の意味はよく分かると思います。本人は、先に追認したとしても、その追認が無権代理人に対するもので、相手方が追認の事実を知らない間に取消権を行使すれば、相手方の取り消しの方が優先することになるわけです。
次に、この取消権は相手方が善意でなければ行使できません。
催告権は、相手方は善意・悪意を問わず行使できますが、取消権は、相手方が善意でないと行使できません。
この善意は、過失の有無を問いません。善意で過失がある相手方でも取消権を行使できます。
催告権は、ただ本人に追認するかどうかを尋ねるだけの権利で、権利としては、そんなに強いものではありません。
これに対して、取消権は相手方の方から契約の効力を否定していくわけですから、それなりの強い権利であるといえます。その強い権利を行使しようとするからには、相手方はそれなりに保護されてしかるべき状態、つまり善意が必要とされているわけです。
なお、この取消権が行使されると、契約は最初からなかったことになるから、相手方は無権代理人に対して117条の無権代理人の責任を追及することができなくなります。もっとも、相手方に損害が生じているときは、不法行為責任を追及して損害賠償をすることはできます。