民法114条(無権代理の相手方の催告権)
【解説】
無権代理行為は原則として本人に効果が帰属しないが、追認がなされると、本人に効果が帰属します。
これは、本人の利益を考えてのことです。本人は、それでいいかもしれませんが、実は無権代理人と契約した「相手方」の保護というのも考えないといけません。
この「相手方」の保護というのは、分かりますか?
相手方は、どういう状況にあるかを考えて下さい。先ほど説明しましたように、無権代理行為がなされますと、本人が追認すれば、本人に効果が帰属するが、追認拒絶すれば本人に効果は帰属しません。これは本人の腹一つで決まるので、相手方としては、いったい本人に効果が帰属するのか、帰属しないのか非常に不安定な状況になります。このような相手方の状況も考えて、民法は相手方に催告権と取消権を与えました。
つまり、相手方は本人に対して、「追認するかどうかいったいどちらなんだ」と返事を促す権利である催告権を与えたのです。
催告権とは、今説明しましたように「相手方が、本人に対して、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる」権利です。
この催告権というのは、たしかに相手方の保護にはなりますが、これはきわめて不十分です。
というのは、相手方にこのような催告の権利を認めても、本人がこの催告に対して梨のつぶてで返事をしてこない可能性があります。
本人が催告に対して、返事をしてこなければ、追認されるかどうかという不安定な状況が継続することになります。
少なくとも、催告「権」ということで、「権利」として認めているのなら、それなりの「効果」がないと意味がありません。
このように相手方の催告に対して、本人から返事がない(民法の言葉で言うと、「確答をしない」)場合は、「追認を拒絶したものとみな」します。
これは、無権代理行為は原則として、本人に効果が帰属しないので、催告に対して確答しないということは、原則通り「追認する気はない」のだな、ということです。
さらに覚えておいて欲しいのは、相手方がこの催告権を行使するには、相手方の善意・悪意を問わないということです。
悪意の相手方にも催告権があります。この場合の「悪意」とは、もちろん無権代理行為であることを知っていたという意味です。
たとえ、悪意の相手方であっても、催告権は本人に対して、追認するかどうかを聞くだけの弱い権利です。これくらいは、悪意の相手方にも認めようという趣旨です。