民法109条(代理権授与の表示による表見代理)
【解説】
1.表見代理総論
(1)表見代理
無権代理というのは、追認された場合は別として、本人に効果が帰属しないということを前提に話をしていました。
これは無権代理である以上、当然と思われますが、実は無権代理であるにもかかわらず本人に効果が帰属する場合があります。もちろん、本人が追認していない場合でも、ということですよ。
本人が追認していないのに、本人に効果が帰属する場合というのは、どういう場合か?
これは、本人が「悪い」場合です。難しい言葉で言うと、本人に「帰責性」がある場合です。
たとえば、本人Aが不動産の売却について、Bに代理権を与えた旨の新聞広告を出したとします。しかし、何らかの事情で、実はBに代理権は与えていなかったとしましょう。Bに代理権を与えていない以上、これは無権代理です。
しかし、新聞広告を見た人は、Bに代理権があると信じるのもやむを得ないことです。このように本人に責任があって、相手方がそれを過失なく信用してしまった場合、これはどう考えても、本人ではなく、相手方を保護すべきでしょう。
こういう場合を「表見代理」といい、無権代理であるにもかかわらず、本人に効果が帰属します。この「表見」代理という言葉、いかにも法律用語で難しい。表見代理というのは、先ほどの新聞広告の例からも分かりますように、外(外部の人間)から見て、代理権があるように見える場合です。「表」(オモテ、外)から「見」ると代理権があるように見える場合なので、「表見」代理というのです。この表見代理が成立するには、3つの要件が必要です。
- 代理人に代理権があるような外観が存在すること
- それについて本人に責任があること
- 相手方が善意無過失であること
この3つです。
1.の外観の存在は、先ほどの例で言うと、新聞広告がその外観ですよね。
2.は、先ほどの例で言うと、本人が新聞広告を出しています。
3.は先ほども触れましたように、相手方の善意無過失ですが、これも相手方の催告権・取消権・無権代理人の責任の追及の話から分かりますように、表見代理というのは、代理権があったのと同じで、本人に効果が帰属します。
これは、相手方にとっては当初の目的を達することができるので、最も強い権利です。そのような強い権利を主張するには、それなりの状況、つまり相手方の善意無過失が必要なわけです。
そこで、民法はこのように本人に責任が認められるような場合として、3つを挙げています。つまり、表見代理が成立するのは、民法が規定している3つの場合ということになります。その3つとは、以下のものです。
- 代理権授与の表示による表見代理
- 権限外の行為の表見代理
- 代理権消滅後の表見代理
要するに、民法は、この3つのパターンのときは、本人が悪い。相手方が善意無過失なら、契約の効果を本人に帰属させようと決めているわけです。この3つのパターンは覚えて下さい。
(2)狭義の無権代理との相違
以上で、表見代理というのを理解していただけましたでしょうか。
一つ問題を出しますので、これで表見代理の理解を深めて下さい。この問題は、最初はよく間違えるというのか、混乱してしまう可能性がある問題です。
「Aは、父Bの実印を勝手に持ち出し、委任状を偽造し、B所有の不動産をCに売却した。Cは善意無過失であれば、Bに対して履行を請求することができる。」
この問題で表見代理が成立すると考えた人は、その時点で間違いです。
表見代理とは、どういうものだったか。本人に責任があるような3つのパターンのときに、相手方の善意無過失を前提に契約の効果が本人に帰属するものです。
本問では、本人Bに悪いところ、つまり責任はありません。息子のAが、父Bの実印を勝手に持ち出して委任状を偽造しているわけですから、Bには帰責性がありません。そして、先ほど説明した表見代理の3つのパターンのどれにもあてはまりません。
これは純然たる無権代理であり、表見代理は成立しません。ということは、相手方が善意無過失であるからといって、本人が責任を負わないといけない理由はないので、CはBに履行の請求をすることはできないので、本問は「誤り」ということになります。Cは、実印を押した委任状を見せられているので、「信じるかな?」というふうに考えないように。
(3)表見代理が成立する場合の無権代理人の責任
この表見代理というのは、本来は無権代理の事例です。
ただ、本人の帰責性と相手方の善意無過失を要件として、本人に責任を負わせるというものです。
したがって、相手方としては、表見代理が成立する場合に、表見代理を主張して本人に責任を追及することもできますし、表見代理を主張せず、無権代理人に無権代理人の責任を追及することも、どちらもできます(最判昭62.7.7)。
2.代理権授与の表示による表見代理
具体例としては、本人Aが不動産の売却について、Bに代理権を与えた旨の新聞広告を出したとします。しかし、何らかの事情で、実はBに代理権は与えていなかった場合です。つまり、新聞広告で、Bに「代理権を授与しましたよ」と表示しているわけです。
他の例としては、白紙委任状の交付というのが上げられます。
AがBに白紙委任状を交付することによって、一般に、Bに代理権を与えた旨を表示することになるわけです。
これらの場合は、表見代理の一種として、相手方の善意無過失を条件に本人が責任を負うことになります。