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民法103条(権限の定めのない代理人の権限)

【解説】

1.代理権の範囲

任意代理の範囲というのが問題になります。ただ、要するに代理人はどこまで代理権があるのかという問題です。

これについては、基本的にそんなに難しい話ではありません。

任意代理というのは、本人から一定のことを頼まれたから、代理人になったわけですから、本人から頼まれた範囲が代理権の範囲ということになります。

たとえば、代理人が本人から土地の売却の代理権を与えられ、相手方と売買契約を締結しました。それが何らかの理由で取消事由があった場合、本人は問題なく取り消すことができます。

なぜか?代理行為の効果は本人に帰属するといいましたね。ということは、代理人が詐欺によって契約をしたという行為の効果(=取消権の発生)も、本人に効果が帰属するからです。

それでは、代理人はこの契約を取り消すことができるでしょうか?

これは、代理人が単に売買契約の締結のみの代理権しか与えられていないのなら、代理人は取り消すことができません。

この場合は、本人が取り消すことになります。しかし、代理人が売買契約に関して、その後の取消権の行使まで含めて本人から代理権が与えられているのなら、本人だけでなく、代理人も取り消すことができます。つまり、本人が代理人にどこまで代理権を与えたかで決まります。

このように代理権の範囲は、本人が代理人に代理権を与える契約(授権契約といいます)の解釈によって決まることになります。

【判例】

  • 債権取立の代理権は、代物弁済を受領する権限を含まない。
  • 債権取立の代理権は、債務の承認を受ける権限を含む。
  • 売買代金受領の代理権は、その売買を解除する権限を包含しない
  • 売買契約を締結する代理権は、登記をする権限、売買不成立の場合に内金・手附の返還を受ける権限、相手方から取消の意思表示を受ける権限などを含む。
  • 弁護士に依頼することの代理権は、報酬約定の権限を包含する。
  • 東京市における地所・家屋の管理人または差配人は、必ずしも、賃料値上げをしない特約をする権限はない(我妻は疑問とする)
  • 支店主任に必ずしも手形振出しの権限はない(我妻は疑問とする)
  • 保険会社の支部長は、必ずしも代理店からの解約申込を受領する権限がない(我妻は疑問とする)

2.権限の定めのない代理人の権限

ただ、任意代理というのは、本人の意思で代理権が与えられる場合ですが、本人から代理権は与えられたが、代理権の範囲までははっきり定められなかった場合に、代理人はどこまで本人を代理していいのか分かりません。

たとえば、本人から「しばらく海外に行っているので、後の財産の管理はよろしく頼む。」と言われて代理権が授与された場合、代理人としては、何をどこまでやっていいのやら迷ってしまいます。そういう場合に備えて、民法は、権限の定めのない代理人の権限というのを定めています。それが本条です。

このような権限の定めのない代理人は、保存行為、利用行為、改良行為の3つを行うことができます。

それぞれについて説明していきましょう。

3.保存行為(第1号)

これは「保存」という言葉でだいたい推測が付くと思いますが、「財産の現状を維持する行為」です。

【具体例】

  • 家屋の修繕
  • 未登記不動産を登記
  • 消滅時効の中断
  • 期限到来の債務の弁済

4.利用行為(第2号)

これは「財産について性質を変えない範囲で収益をもたらす行為」です。

ただ、この利用行為は、財産の性質を変えるようなものは含まれません。

【具体例】

  • 現金を銀行預金にする(利子が付く)
  • 建物の管理を委任された者がその建物を賃貸する

【非該当例】

  • 現金や預金を株に変える(性質が変わる)
  • 銀行預金を個人への貸金とする(性質が変わる)

5.改良行為(第3号)

「財産の性質を変えない範囲で財産の価値を増加させる行為」です。

「利用行為」は、財産を使って「収益」を上げる行為であるのに対して、この「改良行為」は、その「財産自体の価値」を高める行為です。

ただ、これも財産の性質を変えない範囲に限られます。

【具体例】

  • 無利息消費貸借を利息付消費貸借に変更する
  • 家屋に造作を施す
  • 家屋に下水道を引く
  • 荒地を耕地にする

【非該当例】

  • 田を宅地にする…たとえ宅地の方が値段が上がるような場合であっても性質が変わる