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民法32条(失踪の宣告の取消し)

【解説】

1.失踪の宣告の取消し

失踪者が生存すること又は失踪宣告により死亡したとみなされる時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、失踪宣告は取り消されます。

この取消しによって、身分上又は財産上の変動はなかったことになります。したがって、婚姻は解消されず、相続もなかったことになります。

しかし、それでは失踪宣告を信じた者に不測の損害を与えることになるので、民法は2つの例外を規定しています。

一つは、善意で行われた行為の効力には影響を及ぼさない(第1項後段)、返還する財産の範囲(第2項)についてです。

2.善意の行為の効力(第1項後段)

(1) 財産関係

民法では、失踪宣告の取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさないとしていますが、これについては財産上の行為と身分上の行為がそれぞれ問題になりますが、まずは、財産関係からです。

たとえば、失踪宣告により相続された財産が譲受人・転得者と、転々譲渡された場合を考えます。

この場合の「善意」というのは、具体的に誰に要求されているものでしょうか。通説・判例は、両当事者が善意の場合に限り、その行為は有効だとしています。ということは、相続人・譲受人・転得者のいずれかが悪意であれば、被宣告者は財産を取り戻すことができることになります。

これについては、譲受人又は転得者が善意であれば保護する説もありますが、通説・判例は、取引の安全より、被宣告者の利益保護を優先しているといえるでしょう。

(2) 身分関係

次は、身分関係ですが、失踪宣告がなされると、婚姻は解消されますが、失踪宣告が取り消されることによって婚姻関係は復活します。

被宣告者の配偶者が、再婚する前であれば、問題なく婚姻関係は復活すると考えていいでしょう。

問題は、被宣告者の配偶者が再婚していた場合ですが、再婚当事者双方が善意であれば、前婚は復活しないと考えていいでしょう。

問題は、再婚当事者の一方又は双方が悪意の場合です。通説は、失踪宣告の取消しによって前婚は復活し、重婚状態になり、後婚は取消原因、前婚は離婚原因になるとします。

3.返還すべき財産の範囲(第2項)

失踪宣告が取り消されますと、失踪宣告によって財産を得た者は権利を失うので(第2項前段)、財産を返還する必要があります。取得した財産そのものや、取得した財産を売却していれば、その代金などを返還するわけです。

ここで「失踪の宣告によって財産を得た者」というのは、失踪宣告を「直接」の原因として財産を取得した者を指します。たとえば、相続人、生命保険受取人、受遺者などです。失踪宣告によって相続人となった者から売買契約などで財産を譲り受けた者は含まれません。このような者は、第1項後段の問題です。

この「失踪の宣告によって財産を得た者」は、同項後段によって、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還すればよいとされています。これは、失踪宣告によって得た財産のすべてを返還しなければなければならないとしたら、失踪宣告を信じた者に酷だからです。

この失踪宣告によって得た財産を返還するというのは、不当利得によるということになりますが、不当利得の条文では、利得者が善意か悪意かで返還の範囲が異なることになっています。しかし、本条2項では、善意・悪意という文言がありません。そこで、本条2項が適用されるのは、善意に限られるのか、悪意でもよいのかが問題となります。

通説は、悪意の利得者には本条2項は適用されないと考えています。悪意者に適用すると、失踪宣告を信じた者を保護するという趣旨に反するからです。