民法9条(成年被後見人の法律行為)
【解説】
1.成年被後見人の法律行為
成年被後見人が単独で法律行為を行うと、その行為は取り消すことができます。
そして、未成年者の場合は、単に権利を得、義務を免れる行為などは例外的に一人でできますが、成年被後見人には未成年者に認められたこの例外はありません。成年被後見人は、事理を弁識する能力を「欠く」、つまり全くない人ですから、基本的に何も一人ではできないと覚えておいて下さい。
ただ、一つ例外があります。それは日常生活に関する行為です。これは成年被後見人が一人で行うことができます。このような日常生活に関する行為などは、それほど高額の取引でもないし、本人が正常な状態に戻ったときに、この程度の行為を認めておかないと、本人の社会復帰も難しくなります。
2.成年後見人の同意権
成年被後見人は一人では基本的に何もできないので、「成年後見人には同意権はない」という点を確認しておいて下さい。
なぜかというと、同意権というのはどういうものであるかを考えてもらえば理解できると思います。同意権というのは、保護者が事前に本人に同意を与えて、制限能力者「本人」が契約などをすることを指します。つまり、同意権があるということは、同意があることを前提に制限能力者本人が契約をすることを認めるということです。ところが、成年被後見人は、判断能力を「欠く」、つまり判断能力がないということですから、たとえ事前に同意を与えているとしても、本人に契約をさせることは危険です。つまり、成年後見人には同意権はない、ということになります。
3.成年被後見人の法律行為と第三者の関係
成年被後見人が一人で契約などをした場合、基本的に取り消すことができます。
そして今、不動産がA→B→Cと譲渡されたとします。その後、Aが成年被後見人であることを理由に取消をしたとします。Aは、それによってCに移転してしまっている不動産を取り戻すことができるか、というのが問題になります。
結論は、CがたとえAが成年被後見人であるということを知らなかったとしても(善意)、Aは契約を取り消して不動産を取り戻すことができます。
理由は、Aは、成年被後見人という保護されるべき人ですから、その保護を優先すべきだからです。
これは、Aが成年被後見人の場合だけではなく、制限能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人)であれば、すべて当てはまります。