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行為能力総論+意思能力

【解説】

1.意思能力

「契約自由の原則」というのから考えると、人は自分が納得しているならば、たとえば土地の売買契約で、その土地をどのような条件でどのような価格で売ろうが自由だということになります。基本はそうです。

しかし、本当にそれだけでいいのだろうか?という疑問があります。

たとえば、親の遺産で不動産を所有している未成年者が、本人が「うん」と言ったからといって、自由に不動産を売却させてもいいのか?高齢になった人で痴呆の症状が出ている人に自由に不動産等を売却させていいものなのか?ということです。

やはり、このような契約を行うについて判断能力が十分でない者は、本人が納得したからといっても、契約を自由にさせると、自分にとって不利益な契約を行ってしまうので、これらの者を保護しなければならないのではないかというのかということです。

そもそも契約等を行うにあたっては、意思能力というものが必要だとされます。

たとえば、お酒に酔って泥酔状態にある人に対して、契約書を出してハンコを押させたとしても、そのような契約を認めるわけにはいきません。このような契約等をすることができる判断能力のことを意思能力といいます。

このような意思能力のない人が契約を行った場合は、その契約は無効になります。

この意思能力に関する規定は、民法にはありませんが、当然のこととされています。

2.行為能力

このように意思能力のない人が締結した契約等は無効で効力が認められませんが、実はこれだけでは判断能力のない人の保護には十分ではありません。

たとえば、高齢で痴呆になった人が、「前に締結した契約は、意思能力がなかったので、無効だ!」と主張しても、相手は当然それを否定してくるでしょう。その場合、契約をするときに判断能力がなかったというのを証明するのは大変です。

要するに、契約をするには意思能力というものが必要ですが、契約時に意思能力があったか、なかったかというような判断は非常に難しい。

そこで、契約等を行う判断能力が十分でないものを、あらかじめ形式的に決めておいて、これらの者が契約を行った場合は、一律取り消せるとしておけば、判断能力がない者の保護になります。それだけではなく、そのような者と取引をする相手方も警戒することができて、相手方の保護にもなります。

この制限能力者、つまり契約等を行う判断能力が十分でない者というのは、具体的にどのような者か?民法では以下の4種類を定めています。

この中で未成年者は20歳未満の人で、これは分かりやすい。

後の「成年被後見人」「被保佐人」「被補助人」というのは分かりにくいですが、精神病や痴呆などで精神的な障害がある人と考えて下さい。

「成年被後見人」「被保佐人」「被補助人」と3種類ありますが、これは程度の問題です。一番判断能力がないのが「成年被後見人」、次に判断能力がないのが「被保佐人」、一番判断能力があるのが「被補助人」ということです。

以上の制限能力者は保護されますが、どのような形で保護するかというと、このような制限能力者が一人で契約しても、その契約を取り消すことができるという形で保護します。要するに、判断能力が不十分なために、自分に不利益な契約をしても、後でそれを取り消せれば、その制限能力者は保護されるわけですよね。

ここで、一言付け加えますと、このように一人で契約することができない人(未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人)のことを「制限行為能力者」といい、一人で契約することができる能力のことを「行為能力」といいます。したがって、行為能力者というのは、制限行為能力者ではないという意味です。

次に注意してほしいのは、制限能力者であるかどうかは、「形式的」に判断されるということです。意思能力があるかどうかは判断が難しい、そこで判断能力のない者を「あらかじめ形式的」に決めておいて、制限能力者ならば一律取り消せるとしたわけですよね。

したがって、制限能力者かどうかは形式的に明確に判断できないと制限能力者の保護になりません。

また、制限能力者と契約をしようとする相手方も、明確にこの人は制限能力者だと分かれば、「この人と契約すれば、後で取り消されるかもしれないので、契約は控えておこう。」ということになり、相手方も警戒することができるわけです。

これは、未成年者などは分かりやすいですよね。20歳という明確な基準があります。人によって成長の度合いは違うでしょうが、一律20歳までは未成年者としているわけです。

ただ、精神的な障害がある人というのは、実質的な判断になりそうです。しかし、このような精神的な障害がある人も、形式的に決めます。

どうするかというと、本人や親族等が家庭裁判所に審判というのを申し立てて、この人は、たとえば痴呆になっています、一人で契約等をさせると危ないので、成年被後見人等に認定して下さい、というわけです。

そして、家庭裁判所が、「なるほどこの人は判断能力がないな」と思えば、その程度に応じて「成年被後見人」や「被保佐人」や「被補助人」と認めてくれるわけです。つまり、家庭裁判所が認めたかどうかは、形式的な判断です。

したがって、「家庭裁判所の審判で成年被後見人とされた者が、一時的に正常な状態に回復している間になされた契約は取り消すことができるか?」という問いに対しては、「取り消すことができる」となります。

このときに、「正常なんだから契約は有効かな?」と考えてはダメです。今、説明した通り。成年被後見人かどうかは形式的に決まりますので、正常な状態になって家庭裁判所から審判の取り消しを受ければ別ですが、審判の取消のない状態では、依然として成年被後見人のままなので、この契約は取り消すことができます。

実際に契約時に判断能力があったかどうかという実質的なことは考えません。これで「形式的に決まる」という意味が分かってくれましたでしょうか。