民事訴訟法382条(支払督促の要件)
【解説】
1.支払督促とは
支払督促というのは、金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について、債権者が簡易迅速に債務名義を取得するための簡易裁判所書記官が行う処分のことです。この支払督促にかかる手続のことを督促手続といいます。
この支払督促は、何のためにあるかというと、債務の存在及び内容について争いがないにもかかわらず、債務の履行もなされない場合に、給付訴訟によることなく簡易迅速に債務名義を得るために行います。
債権について強制執行を行おうとすると、通常は裁判を行い、判決を得て、その判決を債務名義として、執行文(強制執行ができるという証明書)の付与を受けて強制執行の申立てを行いますが、この手続では時間と手間がかかります。
そこで、仮執行宣言の付与された支払督促(第391条)は、執行力のある債務名義となり、当事者の地位の承継があった場合を除き、執行文の付与を受けることなく強制執行の申立てが可能となります。
2.督促手続の全体の流れ
まず、最初にこの督促手続の全体の流れをまとめておきましょう。
①申立…債権者が簡易裁判所の書記官に申立てを行います(383Ⅰ)
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②支払督促の発令…債務者の言い分を聞くことなく支払督促を発令します(386Ⅰ)
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③送達…支払督促を債務者に送達します(388)
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④異議申立て…債務者は、2週間以内に異議申立てをすることができ(390)、通常訴訟へ移行します(395)
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⑤仮執行宣言…異議申立てがないか、又は異議が不適法却下された場合、債権者の申立てにより支払督促に対して仮執行宣言が付与(391)され、支払督促に(仮に)執行力が付与
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⑥送達…仮執行宣言付き支払督促を当事者に送達(391Ⅱ)
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⑦異議申立て…債務者は、2週間以内に異議申立てをすることができ(393)、通常訴訟へ移行します(395)
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⑧支払督促の確定…異議申立てがないか、又は異議が却下された場合、確定判決と同一の効力(396)
3.請求適格
支払督促は、「金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求」(代替性のある給付請求)について認められます。
このようなものに限定される理由は、支払督促は簡易迅速な手続で発令することができるので、誤った支払督促がなされた場合に、金銭による損害賠償で容易に損失填補ができるようにするためです。
「金銭の給付を目的とする請求」というのは、いわゆる金銭債権のことですが、その発生原因は問われません。また、支払督促は簡易裁判所の裁判所書記官に対して申立てますが、訴額は140万円以内というような制限はありません。
「代替物」というのは、一般取引通念上、特にその物が有している個性が問題とならないもので、特定物は除きます。
「有価証券」は、あくまで代替性のある有価証券に限ります。たとえば、無記名社債券、持参人払式小切手、商品券などです。ただ、有価証券の給付を目的とする支払督促はほとんど例がないようです。
3.送達
支払督促は、債務者に対する送達が義務付けられます(第388条1項)。これは、支払督促が債務者を審尋することなく発することができるので(第386条1項)、債務者に督促異議の申立ての機会を保障するためですから、この機会を実質的に保障するため、公示送達によらないでこれを送達することができる場合に限り、支払督促を発することができます。