民事訴訟法375条(判決による支払の猶予)
【解説】
1.趣旨等
本条は、請求の認容判決において、3年以内の支払猶予又は分割払い、又はこれに合わせて訴え提起後の遅延損害金の支払義務の免除の定めをすることができる旨を規定しています。
これは、和解的判決を認めたものだとされています。この和解的判決の意味が分かりにくいと思いますが、原告は被告に対して1回での給付を求めている場合で、しかも原告の請求を認容する判決をするにもかかわらず、裁判所が分割払い等を命じているということは、原告に対しても譲歩を求めているという意味で、「和解」的な判決というわけです。通常の民事訴訟ではこのような判決は認められていません。
なぜこのような和解的判決が認められているのかというと、少額の債権について、執行手続を利用して1回的な権利の実現を図ろうとしてもコスト倒れに終わる危険があるので、分割払い等によって、被告が判決内容を任意に履行しやすいようにするということです。
このように、原告が1回での給付を求めているにもかかわらず、分割払い等の判決ができる理由は、原告が少額訴訟を選択した以上、黙示的にこのような判決をすることについての同意があったからだと考えられています。
以上より、このような分割払い等の判決は、全部認容判決であり、一部認容判決ではありません。
2.判決による支払の猶予等(第1項・第2項)
まず、第1項の「認容する請求に係る金銭の支払について、その時期の定め」の意味は、分かりにくい表現ですが、本来の支払期限が定まっている場合でも、その時期を猶予する、つまり支払の猶予という意味になります。
次に、「分割払の定め」ですが、これについては第2項で、分割払の定めをするときは、被告が支払を怠った場合における期限の利益の喪失についての定めをしなければならないとされています。
また、「これと併せて、その時期の定めに従い支払をしたとき、若しくはその分割払の定めによる期限の利益を次項の規定による定めにより失うことなく支払をしたときは訴え提起後の遅延損害金の支払義務を免除する旨の定め」というのも、ややこしい表現ですが、要するにまじめに支払うのであれば、訴え提起後の遅延損害金は払わなくてよい、という意味になります。これによって、被告に対して判決内容の任意の履行を促すための動機付けにしようという趣旨です。
次に、この分割払い等の判決をするための要件ですが、①請求を認容する判決をする場合、②被告の資力その他の事情を考慮して特に必要があると認めるとき、の2つになります。
①は当然ですが、②は個々の事案に応じて裁判所が判断することになりますが、具体的には、被告の収入や生活状況、他の債務の有無、資産の有無、原告の意向、原告の権利実現の切迫性等が考慮の要素となります。
3.不服申し立て(第3項)
この分割払い等の裁判については、不服申し立てをすることができません。不服申し立てというのは、具体的には、分割払い等の定めをしたことに対する不服申し立てだけではなく、分割払い等の定めをしなかったことに対する不服申し立ても含みます。そして、もともと少額訴訟においては、控訴をすることはできませんので(第377条)、異議申立(第378条)できないという意味になります。
これは、分割払い等の判決は、先ほど書きましたように全部認容判決であり、原告には異議申立の利益がないからです。したがって、この規定は確認的な意味しかないことになります。
ただ、被告にとっては敗訴の判決であり、被告の支払能力から考えて、裁判所の定めた条項が相当でないという理由で、被告には異議申立の利益があるようにも思えます。しかし、そのような理由で少額の紛争を異議審に持ち越すのは手続全体の遅延を招くことになり、やはり禁止されていると考えられます。
なお、分割払い等の判決の主文の書き方としては、主文第1項として、全体としてどのような給付義務があるかの確認の条項を置いたうえで、分割払い等の条項、支払義務を怠らなかったときの遅延損害金の支払義務を免除する条項、期限の利益喪失条項を加えることになるでしょう。