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被災マンション法5条(敷地売却決議等)

【解説】

1.敷地売却決議(第1項)

建物が全部滅失した場合に、建物の再建決議を行うというのが一つの方法ですが、それだけではなく、敷地を売却して売却代金で別の場所に移るという選択肢もあります。
しかし、共有地を売却するのは、本来共有者全員の同意が必要ですが、敷地共有者等の議決権の5分の4以上の多数で行えるようにしたものです。

敷地利用権が所有権以外である場合(賃借権、地上権等)、その賃借権等が売却の対象となります。したがって、敷地利用権が賃借権であれば、地主の承諾を得る必要があります(賃借権の譲渡、民法612条)。

敷地売却決議を会議の目的とする集会の招集手続、区分所有法の建替え決議・建替えに関する合意の規定が準用されています。

2.決議で定める事項(第2項)

敷地売却決議では、1.売却の相手方となるべき者の氏名又は名称、2.売却による代金の見込額、を定める必要があります。

売却代金は、敷地共有者等に分配されることになりますが、その割合については敷地の権利の割合に従って分配されるべきであるから、特に敷地売却決議において定めることとされていません。

3.集会(第3項)

敷地売却決議を会議の目的とする集会については、再建決議に関する第4条が準用されています(第3項)。

4.敷地共有持分等の売渡し請求(第3項)

敷地売却決議が成立しただけでは、敷地の売買契約が成立するわけではありません。敷地の売却に参加しない敷地共有者等が存在するからです。
そこで、売却に参加しない敷地共有者等に対して、敷地共有持分等を時価で売り渡すべきことを請求することができるようにし、敷地の売却を可能にするとともに、敷地の売却に参加しない敷地共有者等には投下資本回収の手段を与えることにもなります。

これはちょうど区分所有法で、建替え決議がなされたときに、建替えに参加しない区分所有者に対してその区分所有権等の売渡し請求をするのと同じような関係にありますので、区分所有法63条及び64条が一定の読み替えの上で準用されています。

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敷地売却決議等)
被災マンション法第4条 敷地共有者等集会においては、敷地共有者等の議決権の五分の四以上の多数で、滅失した区分所有建物に係る建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に建物を建築する旨の決議(以下「再建決議」という。)をすることができる。
2 再建決議においては、次の事項を定めなければならない。
一 新たに建築する建物(以下この項において「再建建物」という。)の設計の概要
二 再建建物の建築に要する費用の概算額
三 前号に規定する費用の分担に関する事項
四 再建建物の区分所有権(区分所有法第2条第1項に規定する区分所有権をいう。第18条第3項第5号において同じ。)の帰属に関する事項
3 前項第3号及び第4号の事項は、各敷地共有者等の衡平を害しないように定めなければならない。

4 次条第1項に規定する決議事項を会議の目的とする敷地共有者等集会を招集するときは、前条第1項において準用する区分所有法第35条第1項本文の通知は、同項の規定にかかわらず、当該敷地共有者等集会の会日より少なくとも2月前に発しなければならない。
5 前項に規定する場合において、前条第1項において準用する区分所有法第35条第1項本文の通知をするときは、同条第5項に規定する議案の要領のほか、売却を必要とする理由をも通知しなければならない。
6 第4項の敷地共有者等集会を招集した者は、当該敷地共有者等集会の会日より少なくとも1月前までに、当該招集の際に通知すべき事項について敷地共有者等に対し説明を行うための説明会を開催しなければならない。
7 前項の説明会の開催については、前条第1項において準用する区分所有法第35条第1項本文、第2項及び第3項並びに第36条並びに前条第2項及び第3項の規定を準用する。
8 敷地売却決議をした敷地共有者等集会の議事録には、その決議についての各敷地共有者等の賛否をも記載し、又は記録しなければならない。
9 再建決議があった場合については、区分所有法第63条第1項から第3項まで、第4項前段、第6項及び第7項並びに第64条の規定を準用する。この場合において、区分所有法第63条第1項中「区分所有者」とあるのは「敷地共有者等(被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法(以下「特別措置法」という。)第2条に規定する敷地共有者等をいう。以下同じ。)」と、同項並びに同条第3項及び第4項前段並びに区分所有法第64条中「建替えに」とあるのは「再建に」と、区分所有法第63条第2項、第3項及び第4項前段並びに第64条中「区分所有者」とあるのは「敷地共有者等」と、区分所有法第63条第4項前段中「区分所有権及び敷地利用権を買い受ける」とあるのは「敷地共有持分等(特別措置法第2条に規定する敷地共有持分等をいう。以下同じ。)を買い受ける」と、「区分所有権及び敷地利用権を時価」とあるのは「敷地共有持分等を時価」と、同条第6項及び第7項中「建物の取壊しの工事」とあるのは「建物の再建の工事」と、同条第6項及び区分所有法第64条中「区分所有権又は敷地利用権」とあるのは「敷地共有持分等」と、同条中「建替えを行う」とあるのは「再建を行う」と読み替えるものとする。

敷地共有持分等の売渡し請求等)
区分所有法第63条 敷地売却決議があつたときは、集会を招集した者は、遅滞なく、敷地売却決議に賛成しなかつた敷地共有者等(被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法(以下「特別措置法」という。)第2条に規定する敷地共有者等をいう。以下同じ。)(その承継人を含む。)に対し、敷地売却決議の内容により売却に参加するか否かを回答すべき旨を書面で催告しなければならない。
2 前項に規定する敷地共有者等は、同項の規定による催告を受けた日から2月以内に回答しなければならない。
3 前項の期間内に回答しなかつた第1項に規定する敷地共有者等は、売却に参加しない旨を回答したものとみなす。
4 第2項の期間が経過したときは、敷地売却決議に賛成した各敷地共有者等若しくは敷地売却決議の内容により売却に参加する旨を回答した各敷地共有者等(これらの者の承継人を含む。)又はこれらの者の全員の合意により敷地共有持分等(特別措置法第2条に規定する敷地共有持分等をいう。以下同じ。)を買い受けることができる者として指定された者(以下「買受指定者」という。)は、同項の期間の満了の日から2月以内に、建替えに参加しない旨を回答した敷地共有者等(その承継人を含む。)に対し、敷地共有持分等を時価で売り渡すべきことを請求することができる。建替え決議があつた後にこの区分所有者から敷地利用権のみを取得した者(その承継人を含む。)の敷地利用権についても、同様とする。
5 前項の規定による請求があつた場合において、建替えに参加しない旨を回答した区分所有者が建物の明渡しによりその生活上著しい困難を生ずるおそれがあり、かつ、建替え決議の遂行に甚だしい影響を及ぼさないものと認めるべき顕著な事由があるときは、裁判所は、その者の請求により、代金の支払又は提供の日から1年を超えない範囲内において、建物の明渡しにつき相当の期限を許与することができる。

6 敷地売却決議の日から2年以内に特別措置法第5条第1項に規定する敷地売却決議に基づく売買契約による敷地共有持分等に係る土地(これに関する権利を含む。)についての権利の移転(以下単に「権利の移転」という。)がない場合には、第4項の規定により区分所有権又は敷地利用権を売り渡した者は、この期間の満了の日から6月以内に、買主が支払つた代金に相当する金銭をその敷地共有持分等を現在有する者に提供して、これらの権利を売り渡すべきことを請求することができる。ただし、権利の移転がなかつたことにつき正当な理由があるときは、この限りでない。
7 前項本文の規定は、同項ただし書に規定する場合において、権利の移転を妨げる理由がなくなつた日から6月以内に権利の移転がないときに準用する。この場合において、同項本文中「この期間の満了の日から6月以内に」とあるのは、「建物の取壊しの工事の着手を妨げる理由がなくなつたことを知つた日から6月又はその理由がなくなつた日から2年のいずれか早い時期までに」と読み替えるものとする。

売却に関する合意)
区分所有法第64条 敷地売却決議に賛成した各敷地共有者等敷地売却決議の内容により売却に参加する旨を回答した各敷地共有者等及び敷地共有持分等を買い受けた各買受指定者(これらの者の承継人を含む。)は、敷地売却決議の内容により売却を行う旨の合意をしたものとみなす。

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5.抵当権との関係

区分所有建物において、原則として専有部分と敷地利用権を分離して処分することができないので(区分所有法22条1項)、専有部分に抵当権を設定すると、同時に敷地利用権にも抵当権が設定されたことになります。したがって、区分所有建物が全部滅失したとしても、土地は残っている以上、当該専有部分の区分所有者の敷地共有持分等の上の抵当権が消滅するわけではありません。

もちろん、このような抵当権のついた土地も売却することは可能なので、敷地売却決議が成立すれば、敷地を売却することはできます。しかし、現実的には抵当権の付いた土地を買い受けようとする人は少ないので、実際の売却にあたっては、抵当権者と合意して、抵当権を消滅させた上で、売却することになるものと思われます。