事例12~賃貸借契約の申込金の返還

【登場人物】

賃貸契約申込者:A
仲介業者

【事例】

賃貸アパートを探していたAは、仲介業者を訪れ、あるアパートを見に行った。その際、仲介業者より今決めてすぐ申込みをしないとそのアパートは決まってしまいますとの昼夜再三の督促を受け申込金を支払った。

しかし、Aは一晩考えて利便性や陽当たりなどを考えると、あまり良い条件ではないと思い、仲介業者へキャンセルしたいと申し出たが、他にもっと良い物件があるなどといって申込金を返してくれない。

申込金は返してもらえるでしょうか。

※RETIOメルマガ第51号を基に作成しました。

【解説】

宅建業法を勉強していると「申込金」というのがたまに出てきますので、その内容について事例形式で紹介しました。

まず、仲介業者は、「今決めてすぐ申込みをしないとそのアパートは決まってしまいます」とAに対して言っていますが、宅建業法施行規則16条の12第1号ロ「正当な理由なく、当該契約を締結するかどうかを判断するために必要な時間を与えることを拒むこと」という規定に違反している可能性があります。

また、「昼夜再三の督促を受け」たとされていますので、同条1号ホ「迷惑を覚えさせるような時間に電話し、又は訪問すること」及び同条1号ヘ「深夜又は長時間の勧誘その他の私生活又は業務の平穏を害するような方法によりその者を困惑させること」に該当する可能性がありますので、仲介業者の行為は、場合によってはこれらの規定に違反する可能性がありますが、とりあえずその点は置いておきましょう。

問題は、申込金の返還が認められるかどうかです。

本事例のような賃貸借契約において申込金というのは、賃貸借契約の申込みをしたときに、申込順位を確保するなどの名目で授受されるようです。

この申込金は、手付金、内金、予約金などの名目で支払いを要求される場合がありますが、申込順位を確保するという目的である場合は、そのような名目にかかわらず、預り金となります。

この預り金の返還については、宅建業法施行規則16条の12第2号に規定があり、「宅地建物取引業者の相手方等が契約の申込みの撤回を行うに際し、既に受領した預り金を返還することを拒むこと」が禁止されています。

したがって、たとえば、「預り金は手付となっており,返還できない」というように手付として授受していないのに手付だと主張して返還を拒むことなどが禁止されます。

手付金だと手付放棄による解除ということになりますが、本事例でも契約は締結しておらず、申込順位を確保するために交付したにすぎないと認められますので、このような申込金は、申込みの撤回がある以上、理由のいかんを問わず、Aに返還する必要があります。

返還に応じなければ、仲介業者は、宅建業法違反による行政処分の対象になります。