事例10~瑕疵担保責任(現状有姿売買)

【登場人物】

売主:宅建業者
買主:宅建業者ではない
媒介業者

【事例】

築30年の中古の土地付建物を、売主(宅建業者)から媒介業者の媒介により買主(宅建業者ではない)が購入した。売買契約書には、特約として「売主は瑕疵担保責任を負わない」旨と、「本件取引は中古物件に付き現状有姿とする」と規定されていた。

しかし、引渡しを受けて入居したところトイレと玄関が白蟻に食われていることが判明したため、専門業者に依頼して、その修理と防蟻(ぼうぎ)工事を行った。

買主は、売主と媒介業者に対して損害賠償を請求したが、売主は、現状有姿で売却したこと、築30年を経過していること、購入時に売主(本事例の売主の前主)から白蟻について何も聞かされていないこと、そもそも瑕疵担保責任を負わない旨の特約があることを理由に損害賠償の責任を否定している。

媒介業者も、瑕疵担保責任は売主の責任であること、白蟻被害については売主から聞かされていないことを理由に責任を否定している。

買主は、損害賠償請求をすることができるでしょうか。

※本事例はRETIOメルマガ 第45号を基に作成しました。

【解説】

本事例は、普通に瑕疵担保責任の問題です。ただ築30年の中古物件ですので、その点はどのように考慮されるか、というのが強いて言えば問題でしょうか。

買主の損害賠償請求に対して、売主と媒介業者がそれぞれ反論しているので、その反論の可否を検討するという形で解説しましょう。

まず、売主の「現状有姿」(げんじょうゆうし)だという主張についてですが、確かに本事例は中古物件の売買契約ですが、現状有姿の取り引きであるからといって、瑕疵担保責任が否定されるものでありません。そもそも、現状有姿という言葉自体、法律的にきっちりした意味を持つ言葉ではなく、あいまいに使われることが多いですが、普通に取引物件を現状のまま引渡すという意味で、契約締結時から引渡しの間において物件の状況が変化しても「引渡し時」の状態で引渡すという意味で用いられていることが多いようです。

ところが、瑕疵担保責任というのは、「契約締結時」に存在した瑕疵を対象としますので、現状有姿売買であるからといって、瑕疵担保責任を追及できない、ということにはなりません(なお、宅建試験においては、現状有姿という言葉は使われたことはないので、この現状有姿の部分はスルーして、単に中古物件の事例として読んでもらって結構です。)

次の売主の主張ですが、「築30年を経過している」というのは、それなりに考慮する必要はあるでしょう。ちなみに、民法や宅建業法の瑕疵担保責任の規定は、新築物件だけではなく、中古物件にも適用されます。

そこで、この主張についてですが、確かに新築住宅を購入する場合に比べて、築30年の建物はそれなりにガタがきていてもおかしくありません。中古住宅の売買である以上、当然であると言えます。しかし、「住宅」の売買契約である以上、居住のための最低限の品質、性能は必要でしょう。本問の場合は、具体的な不具合の程度によるということでしょうが、白蟻に食われているのであれば、ちょっと売主の主張には無理がありそうです。

次の「購入時に売主(前主)から白蟻について何も聞かされていない」という点についてですが、これには即座に解答できる必要があります。瑕疵担保責任は無過失責任です。したがって、このような売主の言い訳は通りません。

また、「そもそも瑕疵担保責任を負わない旨の特約がある」という点についてですが、これも即答できる必要があります。宅建業法40条によると、宅建業者が自ら売主で、買主が宅建業者でない場合には、原則として民法より買主に不利な特約は認められませんので、本事例の瑕疵担保責任を負わない旨の特約は無効です。

次に、媒介業者の「瑕疵担保責任は売主の責任である」という言い分ですが、確かに瑕疵担保責任は売買契約の売主の責任です。媒介業者が「瑕疵担保責」を負うことはありません。しかし、媒介業者も媒介契約上の義務として、物件についてはある程度調べなければいけません。「白蟻被害については売主から聞かされていない」というだけの理由でこの義務を免れることはできません。このような善管注意義務違反として債務不履行責任としての損害賠償責任を負うことはあります。

ということで、本事例では売主及び媒介業者は、損害賠償の責任を負う可能性はかなり強いと言えます。