事例7~錯誤(借地権価格の減額)

【登場人物】

X:地主、かつ、売主

Y:買主

A:売買の代理業者

【事例】

Xは、その所有の土地を建物所有を目的としてYに賃貸していた。賃貸借契約の期間は30年である。そして、Yはその土地上に建物を建築した。

その後、賃貸借契約の期間経過後、Xは宅建業者Aを代理人として、Yに対して当該土地を4,200万円で売却し、手付金500万円を受け取った。

しかし、期日になってもYが残代金の3,700万円を支払わないので、XはYに対して残代金の支払いを求めて訴えを提起した。

この裁判において、Yは売買代金を定めるにあたって、借地権価格分の減額を主張した。それに対して、Aは借地権は期間満了により消滅した旨の説明をしたので、Yはこの旨誤信して更地価格で買い受けた。しかし、本件賃貸借契約は、更新が可能なものであり、借地権は消滅していなかったのであるから、本件売買契約は錯誤により無効であると主張して、手付金の返還を求めた。

※この事例は、東京地判H6.4.25を基に作成しています。

【解説】

本事例を考える前提として、「借地権価格」というものが分かりにくいと思いますが、宅建試験ではこの借地権価格というもの自体が問われたことはないので、簡単な説明にとどめておきますが、X所有の土地をYに建物所有目的で賃貸したとします。Yは土地を賃借できる権利(借地権)を有していることになります。この借地権は借地借家法で勉強しますが、借主(B)が保護されているので、この借地権自体に価値があると考えます。

そして、この借地権価格は割合(借地権割合)で出します。たとえば、借地権価格が50%だとします。そうすると、底地の価格(建物が立っている土地の価格)は、50%ということになります。本事例でいうと、借地権価格は4,200万円の50%の2,100万円、同様に底地の価格も2,100万円ということになります。

実際には、こんなに単純に行くわけではなく、複雑な要素がからみますが、少なくとも更地価格より、借地権付きの土地の価格の方が安くなります。

以上を前提として本事例を見ると、まずはYの借地権が消滅しているかどうかですが、これはケース・バイ・ケースでもっと詳しい事情が分からないと何とも言えませんが、借地借家法において期間満了により借地権が消滅するには正当事由を満たす必要があり、この正当事由を満たすことは容易ではありません。実際にこの事例の基になっている判例でも、借地権は更新できるものであったと認定しています。

ということは、借地権は消滅していない。ということは、YがXから購入する価格は、更地価格ではなく、更地価格マイナス借地権価格でないとおかしいということになります。

しかし、Yは、Xの代理人である業者Aから借地権は消滅している旨の説明を受けて信用し、更地価格で購入しているので、更地価格で購入したYは契約の要素に錯誤があるといえますので、Yは錯誤無効を主張し、手付金の返還を求めることができます。

なお、本件では、YはAに対しては、何らの主張もしていないようですが、借地権は消滅していると説明したのはAですから、Aに対してその旨の主張も可能だったと思われます。