事例5~宅地建物取引士の責任

【登場人物】

A社:売主(宅建業者)
Y1:A社の幹部社員(被告)
Y2:A社の専任の宅地建物取引士(被告)
X:買主(原告)

【事例】

A社は、北海道の土地について、いわゆる原野商法による売買を行っていたが、原告Xに対して次の売買を行った。

幹部社員Y1の指示により、アンケートに答えてくれたXに対して観劇に招待した際に、営業担当社員が虚偽の資料により5年後には5倍以上の価格になるとして執拗に土地購入を勧め(実際には値上がりの見込みのない土地)、Xはその場で契約し、翌日残代金を支払った。

同様にその後も数度にわたって土地購入を勧め、その都度Xは契約を締結し、代金を支払った。

そして、A社の唯一の専任の宅地建物取引士であるY2は、これらの契約において重要事項の説明を行っていた。

買主Xは、Y1とY2に対して不法行為による損害賠償請求をした。

※この事例は、東京地判平2.9.25を基に作成しています。

【解説】

本事例は、原野商法ですから、A社を被告に詐欺による契約の取消などを主張してもかまわないと思いますが、本事例の基になっている判例(東京地判平2.9.25)は、幹部社員と宅地建物取引士を相手に不法行為による損害賠償請求を追及しています。

幹部社員Y1について不法行為による損害賠償請求があるのは当然でしょう。Y1は幹部社員として、本件土地が価値がないのは当然知っており、虚偽の資料も用いているからです。

ということで、問題はY2の責任ということになります。

この判例では、Y2は、反論として「重要事項の説明はXが購入の意思を決定した後に行われた」ことを挙げているようですが、A社が一連の原野商法による利益を上げるには、適法な取引の外観を作ることが必要で、そのためには宅地建物取引士が重要事項の説明をすることが必要不可欠である旨の指摘をして、Y2の不法行為責任を肯定しています。

このように、会社ぐるみの原野商法の一環として行われた宅地建物取引士の重要事項の説明は、契約直前の形式的なものだとしても、責任を免れないとしている点に注意が必要です。

また、この不法行為責任が認められないとしても、Y1による取引の実行を容易にしたとして、不法行為の幇助者としての責任があるとしています。ちなみに、不法行為の幇助者は、共同行為者とみなして、共同不法行為の規定が適用されます(719条2項)。

以上より、Y1とY2は共同不法行為の責任を負い、連帯して損害賠償をする義務を負います。