事例4~報酬請求権の発生時期
【登場人物】
A:買主
B:媒介業者
【事例】
Aさんは、一戸建ての家に住むのが夢で、毎週末、奥さんと一緒にいろいろな現場を見て回っていました。あるとき、非常に気に行った家を見つけましたが、そのときは奥さんは同行していませんでした。
そこで、媒介業者Bに「妻と相談しますので、来週また来ます」と伝えましたが、この家は大変人気があるので、今日契約しておかないと来週まで残っている保証はないとBに言われました。
そこで、Aはあわてて、その日のうちに媒介業者から重要事項の説明を受けて、手付金50万円を支払って売買契約を締結し、宅建業法37条の契約成立後の書面の交付を受けました。
しかし、帰宅後そのことを奥さんに言ったところ、強くいさめられ、手付金を放棄し購入を中止しようと思い、翌日手付解除を媒介業者Bに申し出ました。
ところが、Bは「手付解除の件は了解しましたが、仲介料(媒介報酬)は全額いただきます。」と言われましたが、どうしても納得できません。
この場合に媒介業者に報酬を支払わないといけないのでしょうか。
【解説】
この問題は、要するに媒介業者の報酬請求権はいつ発生するのか?ということになります。
媒介業者の報酬請求権については、成功報酬主義が取られており、媒介にかかる売買契約等が成立したときに発生します。
この事例では、重要事項の説明も受けているし、37条書面の交付も受けているし、手付も交付して有効に売買契約が成立しています。
したがって、この時点で報酬請求権が発生していると考えられます。買主が手付解除をしたというのは、その後の事情にすぎません。
しかし、本事例では一つ問題があります。それは、媒介業者BがAに対して「この家は大変人気があるので、今日契約しておかないと来週まで残っている保証はない」と言っている点です。
この点について、宅建業法施行規則16条の12第1号ロに規定があります。「宅地建物取引業者等は、正当な理由なく、当該契約を締結するかどうかを判断するために必要な時間を与えることを拒んではいけない」という規定です。
これは、ケース・バイ・ケースということになるでしょうが、媒介業者の発言がこの規定に抵触するようであれば、この点をついて、原則として売買契約の成立により報酬請求権が発生しているが、契約の解除にいたったのが媒介業者の責任であるから、この場合は報酬請求権は発生しないと考える余地があります。
この主張が通らない場合は、媒介業者との交渉ということになるでしょう。
手付解除が行われると、媒介業者の仕事のうち、決済・引渡しという重要な仕事をしなくてよいので、手間が省けるということで、報酬のうち、たとえば半額程度にしてもらうなどの交渉をします。
※この事例は「RETIOメルマガ 第30号」を基に作成しましたが、解説は独自に作成しています。