事例3~手付解除

【登場人物】

A:売主(宅建業者)
B:媒介業者
C:買主

【事例】

Cは土地の購入を考えており、宅建業者Bのところに「よい物件はないか」と媒介を依頼していたが、Bに宅建業者A所有の土地を紹介され、いろいろ迷った末にBの媒介により、「手付金200万円、売買代金は8,000万円、ローン解除条項あり」の条件で売買契約を締結した。

契約にしたがいAが土地の一部の引渡しをした後、まだ迷っていた買主Cは「やはり購入を止めよう」と思い、契約締結後10日経ったところで、手付解除を媒介業者Bに申し出た。

Bは、「買主の勝手な事情では手付解除はできない。どうしても解除するなら違約金が必要になる。」と言い、Cに契約を継続させようとした。

この媒介業者Bの行為は妥当か?

【解説】

この事例においては、最終的に媒介業者Bの手付解除を妨げるような行為が認められるかどうかが問題になっています。

これについては、直接条文があります。

宅建業法47条の2第3項に基づく宅建業法施行規則16条の12第3号の規定で、「宅地建物取引業者の相手方等が手付を放棄して契約の解除を行うに際し、正当な理由なく、当該契約の解除を拒み、又は妨げること」に該当し、本事例の媒介業者Bの行為は、この規定に違反するのではないか、ということになります。

Bの「買主の勝手な事情では手付解除はできない。どうしても解除するなら違約金が必要になる。」という発言は、「手付を放棄して契約の解除を行うに際し、当該契約の解除を拒み、又は妨げる」行為に該当しているようにも思えます。

しかし、この施行規則の規定は「正当な理由なく」という言葉が入っています。手付放棄による解除を拒み、又は妨げる行為でも、それが「正当な理由」があれば、問題はないわけです。

そこで、本問を見ると、Cが手付放棄による解除を申し出ているのは、Aが土地の一部の引渡しをした後のことです。つまり、売主であるAが「履行に着手」しています。手付放棄による解除は「相手方が契約の履行に着手するまで」(民法557条1項)に行う必要がありますので、Cの解除の申出は、遅いといえるでしょう。

実は、このような場合が先ほどの「正当な理由」に該当します。

したがって、媒介業者Bの解除を拒み、又は妨げる行為は、「正当な理由」があるものと認められるので、宅建業法に違反しないものと思われます。

以上

※本事例は「RETIOメルマガ 第30号」の相談事例を基に作成しました。