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第3章 意思表示

1.意思表示とは

この「意思表示」は試験によく出ます。毎年ではないですが、かなりの頻度で出題されますので、絶対に十分準備しておく必要がある範囲です。

この「意思表示」とは何かという点については、直接宅建試験に問われることはないので、「売りたい」「買いたい」「貸したい」「借りたい」というような意思表示のことだと考えておけばいいです。

このような「売りたい」「買いたい」という意思表示に、瑕疵などがあった場合にどうするのか、というのがこの範囲のテーマになります。ちなみに「瑕疵」は、「かし」と読みます。法律ではよく使われる用語なので必ず覚えておいて下さい。意味は「キズ」というような意味です。

2.詐欺

(1) 当事者間の効力

具体的には、Aは、Bに土地を売却しましたが、BはAをだまして不当に安い値段で売却させたとします。このときのAの「売ります」という意思表示は、Bの詐欺によって、瑕疵(かし)があるということになります。このまま、売買契約の効力を認めたのでは、Aはかわいそうです。このようなときは、AはAB間の売買契約について取り消すことができます。ここまではいたって簡単な話です。この結論について、異論がある人はほとんどいないでしょう。「詐欺による意思表示は、当事者間では取り消すことができる。」ということです。

(2) 第三者との関係

次に、AはBに詐欺されて、その所有の不動産を売却してしまったので、Aは売買契約を取り消して、Bから不動産を取り戻そうとします。しかし、そのときBはすでにその不動産をCに売却(これを「転売」と言います。)して、当該不動産はすでにCの元にいっていたとします。A→B→Cというわけです。

この場合、単純にAは詐欺されたので、かわいそうだ、Cから不動産を取り戻せるようにしようというふうにはいきません。Cの立場を考慮しないといけないからです。この場合のCのことを法律では「第三者」と言います。AとBは詐欺による法律行為の「当事者」です。この当事者以外の人を「第三者」と言います。

そしてこの場合、この不動産が結局Aのものになるのか、Cのものになるのかという話になりますが、民法はCが「善意無過失」かどうかで分けて考えます。まず、この「善意」「悪意」というのは法律用語です。「善意」というのは、ある事実を「知らない」ことを意味します。逆に「悪意」というのは、ある事実を「知っている」ことを指します。この法律用語での「善意」「悪意」というのは、日常用語での善意・悪意と異なり、良いとか、悪いというような倫理的な意味は持ちません。要するに知っていたか、知らなかったか、という意味です。これは、法律用語としてはそういう意味に使うのであって、覚えてもらうしかありません。英語の単語を覚えるようなものです。

さらに、「無過失」というのが出てきます。「過失」というのは、不注意でという意味です。そして、先程の「善意」「悪意」との関係ですが、「悪意」は知っているわけですから、それだけの意味ですが、「善意」というのは、2つに分かれます。「知らなかった」としても、それは本人がうっかりしていたために「知らなかった」のか、「知らない」ことがやむを得なかったといえる場合だったのかという点です。知らないのもやむを得ないというのを「善意無過失」と言います。「善意」というのは、過失の有無で2つに分かれるわけです。

話を詐欺に戻すと、Cとしては、AがBにだまされたという事実を①知っていた(悪意)、②知らなかったけど、うっかりして知らなかった(善意有過失)、③知らなかったし、知らなかったのもやむを得ない(善意無過失)、という3つのパターンがあることになります。そして、民法は③のパターン(善意無過失)のときは、Cが勝つとしています。Cが悪意(詐欺の事実を知っている)なら、CはAが契約を取り消すかもしれないということが分かるわけですから、Aの契約の取り消しを認めて、AはCから不動産を取り戻すことができます。しかし、Cが善意無過失であれば、何も事情を知らない上に、それがやむを得ないわけですから、Cの利益を優先させて、AはCから不動産を取り戻すことはできない、というのが民法の規定です。ここで気を付けて欲しいのは、②のパターン(善意有過失)です。この場合は、Aが勝つという点です。これは狙われます。

このことを、「詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することはできない。」と表現します。「対抗する」というのは、「主張する」という意味です。この表現には慣れておいて下さい。試験では、この表現で聞かれることの方が多いです。Aは取消を善意無過失のCに対抗できないので、Cが勝つということです。

ちなみに、詐欺の場合で、第三者Cが善意無過失の場合、AはCに対して詐欺による取消をCに主張することはできませんが、相手方Bに対しては取消を主張することはできます。Bは詐欺をした本人ですから、Bに対する取消を否定する理由はありません。ただ、Cには取消を主張できないので、不動産は帰ってきません。話がややこしいですが、AはCに対しては、取消を主張できないので、不動産は帰ってこない。しかし、Bに対しては取消を主張して、損害賠償でも請求して、お金で賠償してもらうしかないということです。AはBに対しては取消できるというのは、過去問で出題されています。

3.強迫

(1) 当事者間の効力

次はAがBの強迫により意思表示をした場合です。この強迫による意思表示とは、要するに脅されて意思表示をさせられたということですが、この「強迫」という言葉、通常は「脅迫」という字を書くのではないかと思いますが、民法では「強迫」という表現を使っています。同じようなものです。この場合も、Aは、Bの強迫により意思表示をさせられていますので、保護する必要があります。したがって、AはBに対してこの意思表示を取り消すことができます。

(2) 第三者との関係

詐欺の場合と同じように、AがBに対して取消をして不動産を取り戻そうとしたが、BがCに対してすでに当該不動産を転売していた場合はどうか、という問題が生じます。この場合も一見すると、詐欺と同様に、Aは意思表示の取消を善意無過失の第三者であるCに対抗できないとなりそうですが、民法は、詐欺と強迫では違う結論を規定しています。つまり、Aは、Cが善意(つまり強迫の事実を知らない)であっても、Aは意思表示の取消をCに対抗できる、つまりAが勝つんだとしています。

A→B→Cと不動産が転売され、Cが善意無過失の場合、Aが詐欺された場合にはCが勝つが、Aが強迫された場合はAが勝つのだとしているわけです。いったいこの違いはどこから来ているのか?それはAの帰責性の違いです。「帰責」というのは、「責」任を「帰」する、ということで、Aの責任(言い換えると「落ち度」)の違いです。詐欺というのは、騙される方も悪いというのです。それに対して、強迫というのは、ある意味無理やり契約させられたわけで、Aの落ち度としては、少ないというふうに考えます。今までの「詐欺」「強迫」から始まって、似たような事例が何回か続きますが、瑕疵のある意思表示をした者等と、第三者の関係は、意思表示をした者(先ほどの事例ではA)の落ち度という観点から覚えていくと比較的覚えやすくなります。

念のために申し上げておきますと、Cが悪意の場合は、詐欺であろうと、強迫であろうと、Aが勝ちます。つまり、Aは悪意の第三者に対しては、詐欺・強迫による取消を対抗することができます。

(3) 第三者の詐欺・強迫

ところで、この詐欺・強迫については、試験に時々聞かれるパターンで、「第三者の詐欺・強迫」というのがあります。

図表左は、今まで説明してきた事例です。

図表右は、BがAを詐欺・強迫するのではなく、第三者CがAを詐欺・強迫します。この場合、AはBに対して取り消しできるのか、というのが「第三者の詐欺・強迫」の問題です。

これは、普通の詐欺・強迫とは異なり、Bに対してすぐに取消というわけにはいきません。普通の詐欺・強迫の事例は、Bは詐欺・強迫をした当の本人ですから、Bは悪い。したがって、AはBに対しては取消を主張できます。ところが、第三者の詐欺・強迫では、Bは悪くない。悪いのは第三者のCです。だから、普通の詐欺・強迫のA・Cの関係が、第三者の詐欺・強迫では、A・Bの関係に移ってくると考えれば、楽勝です。つまり、詐欺では、Bが善意無過失であれば、Aは取り消すことができません。一方、強迫では、Bが善意であっても、Aは取り消すことができます。

(4) 詐欺・強迫による取消後の第三者

さて、Aが詐欺又は強迫によって意思表示をし、A→B→Cと転売された場合ですが、詐欺の場合でも、強迫の場合でも、今までの話は、Cに先に転売された後に、Aが契約を取り消したという場合です。この場合の第三者は、「取消前の第三者」といいます。図表の上の図です。ところが、「取消後の第三者」というのもあります。つまり、AがBの詐欺・強迫により意思表示を行ったので、AがAB間の契約を取り消しました。Aは契約を取り消すことによって、B名義に移転した登記をA名義に取り戻すことができます。しかし、AがBから登記名義を取り戻す前に、Cに転売してしまった場合、Cのことを「取消後の第三者」といいます。時系列でいいますと、Aの取消→Cへの転売、となっているわけですから、Cは取消後の第三者です。図表の下の図です。この場合のAとCの優劣はどうなるかということです。これは、先ほどと同じようには考えません。時間の流れにしたがって考えてもらえばいいんですが、Aが契約を取り消した時点で、不動産はBからAへ戻ります。にもかかわらず、BはCへ不動産を売却しているわけです。ということは、Bを起点に、B→A、B→Cへ不動産を二重譲渡した形になります。この不動産の二重譲渡というのは、「第6章 物権変動」で勉強しますが、この不動産の二重譲渡は登記を先に備えた方が勝ちます。しかも、登記を先に備えれば「悪意」でも優先します。ここのところは、「第6章 物権変動」を勉強した後にもう一度読んでいただければ非常によく分かります。そこで、以上の結論ですが、取消前の第三者は、善意であれば不動産を取得できますが、悪意であれば不動産を取得できません。取消後の第三者は、善意であろうが、悪意であろうが登記を先に備えれば不動産を取得することができます。この取消後の第三者の話は、詐欺の場合でも、強迫の場合でも同様に当てはまります。これは確実に覚えておいて下さい。

4.虚偽表示

(1) 当事者間の効力

「虚偽表示」とは、たとえば、Aは不動産を所有しているが、税金を滞納していて、このままではその不動産を差し押さえられてしまうという状況だったとします。Aとしては、税金は払えないが、不動産を差し押さえられるのは免れたいと思ったとします。そのときに不動産の名義を友人であるBに変更すると、その不動産はAのものではないということで、差し押さえることはできなくなります。ということで、Bに相談して、つまりBと通謀して不動産の名義をAからBに変更したとします。これは本当は、Bに売却するつもりはないのに、「虚偽」で売却するという意思「表示」をするということで、虚偽表示というわけです。いわば、仮装の売買です。この虚偽表示は、通謀虚偽表示と呼ばれることもありますが、「通謀」という言葉を付けた方が分かりやすいと言えば、分かりやすいと思います。ただ、「虚偽表示」と呼ばれることが多いので、この言葉にも慣れておいて下さい。このように、本当は売る気はないのに、差押えを免れたりするために、売ったことにして名義を移転したりするのを虚偽表示と言います。

このようなことは認められるはずもありませんし、本当は売る気はないわけですから、このような契約は「無効」となります。詐欺・強迫のときに、契約の効力を否定するときは、「取消」というのがなされたと思いますが、この虚偽表示は「無効」です。逆の記載があれば、その問題は間違いです。「無効」か「取消」かは区別して覚えて下さい。

(2) 第三者との関係

詐欺・強迫のところで、善意の第三者との関係というのをやりました。この問題は、虚偽表示においても同様に問題になります。

A→B→Cと不動産が移転しましたが、AB間の意思表示は虚偽表示だった場合、AB間の契約は無効ですから、Aに不動産が戻るはずですが、Cが善意であれば、この不動産はAのものになるのか、Cのものになるのか、という問題です。このような場合、覚え方のコツを話したと思います。Aに落ち度かあるかどうかで見ます。虚偽表示の場合は、Aは差し押さえを免れようという意思があります。そこで、AとCのどちらを保護すべきかということになれば、ためらわずにCになるというのは、理解できると思います。したがって、虚偽表示による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗できない、ということになります。

ところで、この虚偽表示に関しては、第三者がさらに転売した場合はどうなるのかというのが本試験で問われています。つまり、A→B→C→Dと転々と不動産が移転した場合です。現在登記名義はDにあります。さあ、この不動産はAのものか、Dのものか、という話です。これは、Cが善意の場合、悪意の場合、Dが善意の場合、悪意の場合、という組み合わせで4通りの場合があり得ます。

図表を見て下さい。このうち、①と④は考えるまでもないでしょう。CもDも善意なら、不動産はDのものになります。CもDも悪意ならば、これはAのものになります。

次に分かりやすいのは、③の「C:悪意、D:善意」の場合かと思います。これはCは悪意かもしれませんが、Dは何も知らずに不動産を取得しているわけですから、Aとの比較では、Dを保護してしかるべきだと思います。

分かりにくいのは、でココが試験に出やすい。これは一見、Dは悪意なので、Dは負けそうな気がします。ところが、これはDの勝ちです。理由は分かりますか?話を少し前に戻しますと、A→B→CでCが善意の場合です。この場合は、Cが勝ったはずです。ということは、A→B→CでCが善意の段階で、この不動産の所有権は完全にCのものになっているはずです。つまり、善意のCが登場した段階で、Aは所有権を失って脱落するわけです。そして、完全にCの所有になった不動産は、Cが誰に売ろうと勝手です。悪意のDが登場したからといって、Aの所有権が復活するわけではありません。この話から分かりますように、A→B→C→D→E… と延々と転売が繰り返された場合でも、どこかで善意の第三者が現れれば、その段階でAは所有権を失い、以降の所有者は、善意であろうが、悪意であろうが保護されるという結論になります。

(3) 第三者の意義

この虚偽表示の場合の「第三者」について、本試験でもう少しつっこんで問われていますので、補足しておきましょう。

まず、そもそもこの場合の「第三者」というのは、どのような人を指すのか、という問題があります。結論から言うと、虚偽表示の場合の「第三者」というのは、「虚偽表示の目的につき法律上利害関係を有するに至った者」をいうとされています。表現がちょっと分かりにくいですが、A→B→Cと不動産が譲渡された事例で、CはAB間の売買契約が有効で、Bが不動産の所有権を取得したと信じて、そのBから不動産を購入しているわけです。つまり、Cは、AB間の虚偽表示(売買契約)の目的物そのものについて「法律上の利害関係」を有しています。このような者が「第三者」に該当するということです。これに対して、AB間の売買契約が有効だと信用じてBに対して金銭を貸し付けたCなどは「第三者」に該当しないとされます。確かに、CはBは土地を持っている裕福な人だと信じてお金を貸したのかもしれません。しかし、CはBに対して貸金債権を有することになっただけで、その「不動産」そのものについて何らの権利を有することになったわけではありません。したがって、お金を貸したCは「虚偽表示の目的(物)」について、「法律上の利害関係」を有したわけではありません。

次に、この「第三者」は、「善意」であれば、保護されるというのは、先ほど説明した通りです。逆に民法の規定では、それしか書かれていません。つまり、「善意」なら保護されるとしか書かれていないんです。したがって、Cは善意であれば、登記を備えていなくても、過失があっても保護されます。つまり、この虚偽表示の第三者の場合は、「善意無過失」までは要求されていないということです。

5.錯誤

(1) 当事者間の関係

「錯誤」というのは、言葉から分かるので、あえて説明する必要もないでしょうが、勘違いをして契約をしてしまったような場合です。Aがその所有の不動産をBに売却したが、その売却の意思表示が錯誤によるものであった場合、この契約は取り消すことができます。ただ、この錯誤の場合は、詐欺・強迫や、虚偽表示のように、すぐに無効や取消という話にはなりません。というのは、錯誤というのは、Aが自分で勘違いしたわけであり、詐欺・強迫のようにBがなんらかの悪いことをしたというわけではないからです。したがって、錯誤による意思表示は取り消すことができますが、この錯誤による取消しを主張するには、2つの要件が必要になってきます。この2つの要件は非常に重要ですので覚えて下さい。

図表の2つです。

まず、①の「錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要であること」です。契約のささいな部分に錯誤があるということで、錯誤による取消しの主張を認めると、後で契約にケチを付けて、契約の履行を拒む口実にされてしまいます。錯誤により契約を取り消すのは、それなりに契約の重要な部分に錯誤があった場合でないといけないということです。

②は、表意者(意思表示をした者のこと、最初の事例でいうとAのこと)が勘違いで契約をしたが、その勘違いが表意者の重大な不注意による場合(重過失、つまり重大な過失)には、錯誤による取消しを認めるのは妥当でないという意味です。ただ、表意者に重過失があっても、①相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったときと、②相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたときには、表意者は錯誤による取消しを主張することができます。①については、相手方が、表意者が錯誤に陥っている状態を利用して取引をするのはアンフェアだということです。

この①「錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要であること」という点と、②表意者に重過失がないという2つの要件の両方をクリアしたときだけ、錯誤による取消しの主張が認められます。

さて、この錯誤ですが、「動機の錯誤」といわれる問題があります。たとえば、Aが甲という土地をBに売却したとします。この点について何の錯誤もありません。Aは本当に甲地を売るつもりで、「甲地を売る」と言ったわけです。この部分に錯誤があれば通常の錯誤です。たとえば、甲地の隣の乙地を売るつもりだったのに、「甲地を売る」と言ってしまったような場合です。民法では、このような通常の錯誤のことを「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」という表現をしています。ところが、「動機の錯誤」というのは、Aが甲地を売却すると言ったのは、今売却すれば税金がかからないと思ったので、「売る」と言ったんですが、実は今売っても課税されるという事例です。つまり、Aに錯誤があるのは、「今なら税金がかからない」という動機の部分にあったわけです。民法では、これを「表意者が法律行為の基礎とした事情(動機のこと)についてのその認識が真実に反する錯誤」と表現しています。これはみなさんどう思われますか?この動機というのは、Aの心の中にあるものです。それを理由に錯誤による取消しを主張されると、Bは困ります。そこで、民法は「動機の錯誤は、その事情が法律行為の基礎とされていることが「表示」されていたときに限り、取消しを主張できる。」としています。なお、この「表示」というのは、明示的に表示された場合だけでなく、黙示的に表示された場合でもよいという判例があります。

なお、この錯誤による取消しの主張ですが、これはあくまで錯誤による意思表示をした表意者を保護するためのものですから、相手方や第三者から錯誤による取消しを主張することはできません。これも覚えておいて下さい。

(2) 第三者との関係

さて、この2つの要件を満たし、錯誤による取消しの主張が認められた場合には、詐欺・強迫、虚偽表示と同様に第三者との関係が問題になります。つまり、A→B→Cと不動産が譲渡されたが、Aが錯誤を理由にAB間の契約を取消した場合、この不動産はAのものになるのか、Cのものになるのかということです。この場合は、詐欺の場合と同様、Aは錯誤による意思表示の取消しを善意・無過失の第三者に対抗することができない、と規定しています。

6.心裡留保

(1) 当事者間の効力

次に、「心裡留保」というものです。法律用語というのは難しいものが多いですが、「心裡留保」とは、民法の表現で言うと、「表意者が真意ではないことを知ってした」意思表示のことです。表意者が自分で真意でないことを知って意思表示をしているわけですから、分かりやすい例で言えば、冗談で意思表示をしたような場合です。これは、本人の真意ではないにしても、一応本人は意思表示をしているわけですから、原則として、この意思表示は有効です。

ただ、本人はその気がないわけですから、相手方も本人が真意ではないということを知っていた(悪意)か、過失があって相手が真意でないということに気が付かなかったような場合にまで、無理に契約を有効とする必要はありません。本人も冗談で言ったし、相手方もこれは冗談だと分かっているような場合です。このような場合、つまり相手方が悪意か、善意でも過失があった場合は、契約は例外的に「無効」となります。

(2) 第三者との関係

そこで、この心裡留保による契約が例外的に無効になった場合は、詐欺・強迫等のような場合と同様に、A→B→Cと不動産が譲渡された場合に、ACの優劣はどうなるかということが問題になります。これもAの落ち度の具合で考えましょう。心裡留保による意思表示は、本人のうかつな発言によって契約をしたわけですから、Aに落ち度ありです。したがって、心裡留保による無効は、善意の第三者に対抗できません。

それでは、ここでちょっと問題を出してみましょう。A→B→Cと不動産が譲渡され、Aの意思表示が心裡留保によるものであったとしましょう。Bが善意無過失か悪意(又は過失)か、Cが善意か悪意か、で図表のように4通り考えられます。この場合、ACの優劣はどうなりますでしょうか?

①と②は、Cが善意であろうと、悪意であろうと、Bが善意無過失である以上、AB間の契約は有効です。したがって、不動産はCのものになります。②がひっかかりやすかったでしょうか。

③と④は、Bが悪意なので、AB間の契約は無効となりますが、③のCが善意であれば、不動産はCのものとなりますが、④のCが悪意であれば不動産はAのものなります。

さて、以上いろいろと説明してきましたが、この「第三者との関係」というのは試験に出題される典型的なパターンです。ただ、ちょっと複雑ですので、最後に心裡留保に限らず、今までのすべての部分をまとめておきましょう。

全部をまとめたのが上記の表です。この表をじっくり見て、「表意者の帰責性」という観点から、考えてもらえれば覚えられると思います。

表意者に責任がある場合(心裡留保と虚偽表示)は、第三者は善意のみでよく、無過失までは要求されておらず、その保護要件を軽くしてバランスを取っています。

逆に、表意者に責任が少ないような場合には、第三者は善意だけでなく、無過失まで要求し、保護要件を厳しくしバランスを取っています。詐欺がそれに当たります。詐欺の被害者(表意者)は少し保護されているわけです。錯誤は微妙なところですが、表意者に重過失がないことが要件となっていますので、責任が少ないと考えればいいでしょう。第三者に善意無過失を要求しています。

7.公序良俗違反

最後に「公序良俗違反」というのを簡単に説明しておきましょう。この「公序良俗」とは、「公の秩序又は善良の風俗」という意味です。よく例に出されるのは、妾契約とか、殺人を依頼する契約等です。このような契約は社会の秩序に反する契約ですから、いくら当事者が合意したからといっても無効です。

ここでも、善意の第三者との関係が問題になります。この公序良俗違反の行為は、社会的に許されない行為ですから、絶対的にその効力を認めることはできません。したがって、AB間の契約が公序良俗違反で、BがCに不動産を転売していた場合、Cが善意でも、AはCに対して、契約の無効を主張することができます。