下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。

宅建 過去問解説 令和3年 問1

【動画解説】法律 辻説法

【問 1】 次の1から4までの記述のうち、民法の規定、判例及び下記判決文によれば、正しいものはどれか。

(判決文)
賃貸人は、特別の約定のないかぎり、賃借人から家屋明渡を受けた後に前記の敷金残額を返還すれば足りるものと解すべく、したがって、家屋明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係にたつものではないと解するのが相当であり、このことは、賃貸借の終了原因が解除(解約)による場合であっても異なるところはないと解すべきである。

1 賃借人の家屋明渡債務が賃貸人の敷金返還債務に対し先履行の関係に立つと解すべき場合、賃借人は賃貸人に対し敷金返還請求権をもって家屋につき留置権を取得する余地はない。

2 賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは、1個の双務契約によって生じた対価的債務の関係にあるものといえる。

3 賃貸借における敷金は、賃貸借の終了時点までに生じた債権を担保するものであって、賃貸人は、賃貸借終了後賃借人の家屋の明渡しまでに生じた債権を敷金から控除することはできない。

4 賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務の間に同時履行の関係を肯定することは、家屋の明渡しまでに賃貸人が取得する一切の債権を担保することを目的とする敷金の性質にも適合する。

【解答及び解説】

【問 1】 正解 1

1 正しい。判決文は、「賃借人から家屋明渡を受けた後に前記の敷金残額を返還すれば足りる」としており、これは建物明渡か先履行の関係に立つことを意味している。したがって、敷金返還請求権をもって家屋につき留置権を主張しようとしても、すでに建物は明け渡している以上、賃借人が留置権を取得する余地はない。
*民法622条の2第1項

2 誤り。判決文は、「家屋明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係にたつものではない」としているが、問題文では、「1個の双務契約によって生じた対価的債務の関係にある」としており、これは同時履行の関係にあることを示しており、判決文に合致しない。
*民法622条の2第1項

3 誤り。判決文は、「賃借人から家屋明渡を受けた後に前記の敷金残額を返還すれば足りる」としており、賃貸借終了後賃借人の家屋の明渡しまでに生じた債権を敷金から控除することも認めている。
*民法622条の2第1項

4 誤り。敷金の性質を「家屋の明渡し」までに賃貸人が取得する一切の債権を担保することを目的とすると考えるのであれば、賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務の間に同時履行の関係を肯定するのではなく、判決文のように両者の同時履行の関係を「否定」しなければならない。
*民法622条の2第1項


【解法のポイント】この問題は、敷金返還債務の発生時期について「明渡し時」とする民法の規定(問題文では「判決」の形で出題されているが、令和2年の民法改正で明文化された)は、みなさんよく勉強されると思いますので、落ち着いて問題文を読めば解答できたと思います。ただ、肢1の問われ方が気になった方もおられたと思いますが、他の肢は明らかに「誤り」です。