下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。
宅建 過去問解説 令和元年 問6
【問 6】 遺産分割に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
1 被相続人は、遺言によって遺産分割を禁止することはできず、共同相続人は、遺産分割協議によって遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
2 共同相続人は、既に成立している遺産分割協議につき、その全部又は一部を全員の合意により解除した上、改めて遺産分割協議を成立させることができる。
3 遺産に属する預貯金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され、共同相続人は、その持分に応じて、単独で預貯金債権に関する権利を行使することができる。
4 遺産の分割は、共同相続人の遺産分割協議が成立した時から効力を生ずるが、第三者の権利を害することはできない。
【解答及び解説】
【肢3の出題時の解説】
共同相続された預貯金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となり、その持分の範囲であっても、単独で預貯金債権に関する権利を行使することはできない(最決平28年12月19日)。
【同補則解説】
従来の判例では、遺産に属する預貯金債権のような可分債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるとしていました。したがって、共同相続人は、その持分に応じて、単独で預貯金債権に関する権利を行使することができます(最判平16年4月20日)。この考え方であれば、本肢は正しい記述になります。なお、この考え方では、預貯金債権は原則として遺産分割の対象とはならず、相続人は、預貯金債権を除いたその他の相続財産について遺産分割を行うことになります。
しかし、この判例は変更されました。共同相続された預貯金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当であるとする判例です(最決平28年12月19日)。この考え方によれば、共同相続人は、その持分に応じてであれ、単独で預貯金債権に関する権利を行使することはできません。したがって、本肢は誤りの記述になります。
しかし、この問題は、さらにややこしい。この判例を受けて、民法が改正されています。それは、民法909条の2で、簡略化して記述すると「各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち一定額については、単独でその権利を行使することができる。」という規定です。この規定によると、本肢の記述は「誤り」ということになると思います。問題文は、当然に相続分に応じて分割され、共同相続人は、その「持分」に応じて、単独で預貯金債権に関する権利を行使することができる、とされているからです。民法909条の2で認められている単独での権利行使は、あくまで「一定額」に限られており、問題文のように持分の範囲なら全額について単独での権利行使を認めているわけではないからです。
ところが、この話はこれだけでは終わりません。この民法909条の2は、令和元年7月1日の施行です。ご存知のように、宅建試験は試験の年の4月1日現在の法律で出題されます。したがって、平成31年4月1日現在では、この民法909条の2は施行されていないことになります。
以上より、結局、今年の試験においては、変更された判例で、かつ、民法909条の2施行前の状態で答えることになりますので、「誤り」ということになります。
【問 6】 正解 2
1 誤り。被相続人は、遺言で、相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
*民法908条
2 正しい。共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではない(最判平2年9月27日)。
3 誤り。各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち「一定額」については、単独でその権利を行使することができる。したがって、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるわけではなく、持分の範囲なら全額について単独での権利行使を認めているわけではない。
*民法909条の2
4 誤り。遺産の分割は、「相続開始の時にさかのぼって」その効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。遺産分割協議が成立した時から効力を生ずるのではない。
*民法909条
【解法のポイント】本問は、難しかったと思います。正解肢の肢2は初めての出題だったと思います。また、肢3も難しい問題でした。なお、肢3については、判例の変遷、法改正の内容及び施行時期に関して、出題当時は非常に難しい状態でした。念のために、出題時の解説をそのまま残しておきます。【肢3の出題時の解説】
共同相続された預貯金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となり、その持分の範囲であっても、単独で預貯金債権に関する権利を行使することはできない(最決平28年12月19日)。
【同補則解説】
従来の判例では、遺産に属する預貯金債権のような可分債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるとしていました。したがって、共同相続人は、その持分に応じて、単独で預貯金債権に関する権利を行使することができます(最判平16年4月20日)。この考え方であれば、本肢は正しい記述になります。なお、この考え方では、預貯金債権は原則として遺産分割の対象とはならず、相続人は、預貯金債権を除いたその他の相続財産について遺産分割を行うことになります。
しかし、この判例は変更されました。共同相続された預貯金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当であるとする判例です(最決平28年12月19日)。この考え方によれば、共同相続人は、その持分に応じてであれ、単独で預貯金債権に関する権利を行使することはできません。したがって、本肢は誤りの記述になります。
しかし、この問題は、さらにややこしい。この判例を受けて、民法が改正されています。それは、民法909条の2で、簡略化して記述すると「各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち一定額については、単独でその権利を行使することができる。」という規定です。この規定によると、本肢の記述は「誤り」ということになると思います。問題文は、当然に相続分に応じて分割され、共同相続人は、その「持分」に応じて、単独で預貯金債権に関する権利を行使することができる、とされているからです。民法909条の2で認められている単独での権利行使は、あくまで「一定額」に限られており、問題文のように持分の範囲なら全額について単独での権利行使を認めているわけではないからです。
ところが、この話はこれだけでは終わりません。この民法909条の2は、令和元年7月1日の施行です。ご存知のように、宅建試験は試験の年の4月1日現在の法律で出題されます。したがって、平成31年4月1日現在では、この民法909条の2は施行されていないことになります。
以上より、結局、今年の試験においては、変更された判例で、かつ、民法909条の2施行前の状態で答えることになりますので、「誤り」ということになります。