下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。

宅建 過去問解説 平成24年 問32

【動画解説】法律 辻説法

【問 32】 宅地建物取引業者A社が、自ら売主として宅地建物取引業者でない買主Bと宅地の売買について交渉を行う場合における次の記述のうち、宅地建物取引業法(以下この問において「法」という。)の規定に違反しないものはどれか。なお、この問において、「重要事項説明」とは、法第35条の規定に基づく重要事項の説明を、「37条書面」とは、法第37条の規定により交付すべき書面をいうものとする。

1 Bは、買受けの申込みを行い、既に申込証拠金を払い込んでいたが、申込みを撤回することとした。A社は、既にBに重要事項説明を行っていたため、受領済みの申込証拠金については、解約手数料に充当するとして返還しないこととしたが、申込みの撤回には応じた。

2 Bは、事業用地として当該宅地を購入する資金を金融機関から早急に調達する必要があったため、重要事項説明に先立って37条書面の交付を行うようA社に依頼した。これを受け、A社は、重要事項説明に先立って契約を締結し、37条書面を交付した。

3 Bは、当該宅地を購入するに当たり、A社のあっせんを受けて金融機関から融資を受けることとした。この際、A社は、重要事項説明において当該あっせんが不調に終わるなどして融資が受けられなくなった場合の措置について説明をし、37条書面へも当該措置について記載することとしたが、融資額や返済方法等のあっせんの内容については、37条書面に記載するので、重要事項説明に係る書面への記載は省略することとした。

4 Bは、契約するかどうかの重要な判断要素の1つとして、当該宅地周辺の将来における交通整備の見通し等についてA社に確認した。A社は、将来の交通整備について新聞記事を示しながら、「確定はしていないが、当該宅地から徒歩2分のところにバスが運行するという報道がある」旨を説明した。

【解答及び解説】

【問 32】 正解 4

1 違反する。宅地建物取引業者の相手方等が契約の申込みの撤回を行うに際し、既に受領した申込証拠金等の預り金を返還するのを拒むことは禁止されている。
*宅建業法施行規則16条の11第2号

2 違反する。重要事項の説明は、売買契約が成立するまでの間に行わなければならないので、A社が重要事項説明に先立って契約を締結した行為は宅地建物取引業法に違反する。
*宅建業法35条1項

3 違反する。重要事項の説明においては、代金又は交換差金に関する金銭の貸借の「あっせんの内容」及び当該あっせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置を説明する必要がある。

【じっくり解説】

これは、35条書面と37条書面の記載事項の差異について問われています。35条と37条については、この比較の形の出題は多いですね。条文の原文を見てみましょう。

35条
「代金又は交換差金に関する金銭の貸借のあっせんの内容及び当該あっせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置」

37条
「代金又は交換差金についての金銭の貸借のあっせんに関する定めがある場合においては、当該あっせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置」

となっていますが、「ほぼ」同じ内容です。この「ほぼ」というところが、クセモノです。宅建業法は、そんなに「深み」のある問題はないんですが、「細かい」問題が厄介になります。この問題は、そんな問題の一つになります。しかも、これは過去問でも出題されているので、当然できなければいけない問題です。

で、この2つの相違ですが、金銭の貸借のあっせん(つまりローンのあっせん)について、

35条は「あっせんの内容」及び「金銭の貸借が成立しないときの措置」
37条は「金銭の貸借が成立しないときの措置」

が記載事項になっているわけです。つまり、金銭の貸借のあっせんの「内容」の有無について違いがあります。したがって、この問題の解答は、宅建業法に「違反する」ということになります。35条書面には、金銭の貸借の「あっせんの内容」の記載が必要だからです。

ということで、この結論だけでいいわけですが、こういう細かい部分は、覚えにくいというのか、忘れやすい範囲になりますので、なぜこのような差異が生じるのかについて、なかなか本等を読んでも理由が書いていないので、私の考えを述べて、少しでも覚えやすくなるようにしたいと思います。

もともと重要事項の説明は、その説明を聞いて契約をするかどうかを判断する材料にしようというものです。そして、住宅等の場合、通常は売買代金を一括して弁済するということは少なく、銀行のローンを組むことになります。つまり、買主にとっては、ローンが成立するかどうかは、買うかどうか(買えるかどうか)について非常に重要な問題になります。したがって、重要事項の説明段階では、ローンが成立するかどうかを判断するため、「あっせんの内容」=ローンの内容についても説明する必要があります。

しかし、37条書面の場合には、売買契約の内容について、後日の紛争を防止する目的で作成されます。しかし、ローンの内容は、直接には買主と銀行の問題(法律的には金銭消費貸借契約といいます。)であり、37条書面の記載事項は、あくまで売主・買主の問題です。

ローンが売主・買主間の売買契約で問題になるのは、ローンが成立せず、売買代金を支払うことができなくなった場合の債務不履行のときです。したがって、37条書面では、「金銭の貸借が成立しないときの措置」だけが記載されるというわけです。

*宅建業法35条1項12号

4 違反しない。宅地建物取引業者は、宅地建物取引業に係る契約の締結の勧誘をするに際し、宅地建物取引業者の相手方等に対し、当該契約の目的物である宅地又は建物の将来の環境又は交通その他の利便について「誤解させるべき断定的判断」を提供することは禁止されている。しかし、本肢では、新聞記事を示しながら、「確定はしていないが、当該宅地から徒歩2分のところにバスが運行するという報道がある」という説明しかしていないので、「誤解させるべき断定的判断」を提供しているとまではいえない。
*宅建業法施行規則16条の11第1号イ


【解法のポイント】この問題は、肢3が正確に覚えられていたかどうかがポインドでしたね。35条書面では「あっせんの内容」が必要だが、37条書面では「あっせんの内容」までは不要であるということです。これがちゃんと「×」と付けられた人は、問題なく肢4の正解が導けたと思います。ちなみに肢3は過去問の範囲でした。