下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。

宅建 過去問解説 平成24年 問7

【動画解説】法律 辻説法

【問 7】 物上代位に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。なお、物上代位を行う担保権者は、物上代位の対象とする目的物について、その払渡し又は引渡しの前に差し押さえるものとする。

1 Aの抵当権設定登記があるB所有の建物の賃料債権について、Bの一般債権者が差押えをした場合には、Aは当該賃料債権に物上代位することができない。

2 Aの抵当権設定登記があるB所有の建物の賃料債権について、Aが当該建物に抵当権を実行していても、当該抵当権が消滅するまでは、Aは当該賃料債権に物上代位することができる。

3 Aの抵当権設定登記があるB所有の建物が火災によって焼失してしまった場合、Aは、当該建物に掛けられた火災保険契約に基づく損害保険金請求権に物上代位することができる。

4 Aの抵当権設定登記があるB所有の建物について、CがBと賃貸借契約を締結した上でDに転貸していた場合、Aは、CのDに対する転貸賃料債権に当然に物上代位することはできない。

【解答及び解説】

【問 7】 正解 1

1 誤り。賃料債権について一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押えが競合した場合には、両者の優劣は一般債権者の申立てによる差押命令の第三債務者への送達と抵当権設定登記の先後によって決せられる。本肢では、抵当権設定登記の方が先であるから、Aは当該賃料債権に物上代位することができる。

【じっくり解説】

難問ということで、パスしたいというのが人情だと思いますが、実はこの問題は過去に2回出題されています。2度あることは3度あるじゃないですが、2回出題される問題は、3回出題される可能性は非常に高いと思います。したがって、私の考えとしては、勉強しておいた方がいいと思います。内容的には、今から説明しますので、それほど「分からない」というほどではないので、頑張りましょう。

まず、解答は「×」ということになります。

この問題の前提として、抵当権の性質として、物上代位性というのがありますが、抵当目的物について抵当権設定者が賃貸した場合の賃料について、抵当権の効力は物上代位によって賃料に及びます。そして、物上代位によって賃料に抵当権の効力を及ぼすには、抵当権設定者が受領する前に賃料を差し押さえる必要があります。ここまでは、基本で全員絶対に押さえておかなければいけません。

そして、本問の内容についてですが、この賃料に対する物上代位と、抵当権設定者の一般債権者が賃料を差し押さえた場合、どちらが優先するのかという問題です。

これは、早い者勝ちと考えますが、具体的には、
「抵当権者の抵当権設定登記」が先か、一般債権者の差押が先か、と考えるのか
「抵当権者の差押」が先か、一般債権者の差押が先か、と考えるのかです。

差押同士の対決ですから、差押の先後で決めそうな感じがするかもしれませんが、そうではありません。判例は、「抵当権者の抵当権設定登記」と、一般債権者の差押のどちらが先かで決めます。このように考える判例の見解の基礎には、抵当権の設定登記によって抵当権の効力が物上代位の目的債権の上にも及ぶことがすでに公示されている、という考えがあります。一般債権者が不動産を差し押さえるにあたって、すでにその不動産は抵当権で「押えられている」ということが分かるではないか、というんですね。

したがって、結論としては、一般債権者の申立てによる差押命令の第三債務者(賃借人)への送達と「抵当権設定登記」の先後によってその優劣が決せらます。

*民法372条

2 正しい。抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及び、抵当権が実行されても、当該抵当権が消滅するまでは、賃料債権に物上代位することができる。
*民法371条

3 正しい。抵当権は、その目的物の滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭に対しても行使することができ、建物に掛けられた火災保険契約に基づく損害保険金請求権もそれに該当する。
*民法372条

4 正しい。賃料に対する物上代位について、抵当権設定者Bが取得する賃料に対しては抵当権の効力を及ぼすことができるが、賃借人Cが取得する転貸賃料についてまでは抵当権の効力を及ぼすことはできない。

【じっくり解説】

本問は、A=抵当権者、そしてB所有の抵当目的物について、B→C→Dと転貸借がなされているという状態です。まず、B→Cの賃料債権については、抵当権者は物上代位することができます。これは基本です。

それでは、C→Dの転貸賃料債権に当然に物上代位することができるのか?というのが本問です。この問題が出題された時点では、初出題だったので、「?」ということで保留という人が多かったと思います。

本問は、結論からいうと抵当権者は、C→Dの転貸賃料債権に当然に物上代位することはできないので、「正しい」ということになります。というのは、BのCに対する賃料債権は抵当権設定者であるBが取得する金銭債権ですから、抵当権者も物上代位の権利がありますが、CのDに対する転貸賃料債権は、賃借人Cが取得する権利を有するものであり、Cは抵当権設定者でも何でもないわけですから、Cの債権に対して抵当権者が物上代位を及ぼすことは適当ではないからです。

*民法372条


【解法のポイント】これは非常に難問だったと思いますが、正解肢の肢1は過去に出題があります。過去問はやはり重要ですね。