下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。
宅建 過去問解説 平成23年 問6
【問 6】 Aは自己所有の甲建物をBに賃貸し賃料債権を有している。この場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
1 Aの債権者Cが、AのBに対する賃料債権を差し押さえた場合、Bは、その差し押さえ前に取得していたAに対する債権と、差し押さえにかかる賃料債務とを、その弁済期の先後にかかわらず、相殺適状になった段階で相殺し、Cに対抗することができる。
2 甲建物の抵当権者Dが、物上代位権を行使してAのBに対する賃料債権を差し押さえた場合、Bは、Dの抵当権設定登記の後に取得したAに対する債権(差押え後の原因に基づいて生じたものとする。)と、差し押さえにかかる賃料債務とを、相殺適状になった段階で相殺し、Dに対抗することができる。
3 甲建物の抵当権者Eが、物上代位権を行使してAのBに対する賃料債権を差し押さえた場合、その後に賃貸借契約が終了し、目的物が明け渡されたとしても、Bは、差し押さえにかかる賃料債務につき、敷金の充当による当然消滅を、Eに対抗することはできない。
4 AがBに対する賃料債権をFに適法に譲渡し、その旨をBに通知したときは、通知時点以前にBがAに対する債権を有しており相殺適状になっていたとしても、Bは、通知後はその債権と譲渡にかかる賃料債務とを相殺することはできない。
【解答及び解説】
【問 6】 正解 1
1 正しい。差押を受けた債権の債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができないが、以前から反対債権を有している場合は、その弁済期の先後にかかわらず相殺することができる。
【じっくり解説】
この問題を解くのに必要な知識は、「支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。」(支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)という民法の条文です。この知識は、非常によく試験に出題されるので、絶対に覚えておいて下さい。
そして、この知識を知っている人が、この問題について考え込むとしたら、問題文の最後の方に「その弁済期の先後にかかわらず」という言葉がある点でしょう。そこで、その前に、「その弁済期の先後にかかわらず」を抜いて問題を見ましょう。
その前提として、「第三債務者」という言葉は、みなさんご存知ですよね。簡単にいえば、「債務者の債務者」という意味です。Cが債権者、Aが債務者ですが、債務者Aの債務者Bが第三債務者に該当します。
AのBに対する債権を、Cが差し押さえた場合に、BがAに対する債権を取得した時期が差押の後であれば、Bは相殺できませんよ、というのが先ほどの民法の条文です。
これは逆をいえば、Cの差押の前にBがAに対する債権を取得していれば、Bは差し押さえられたAのBに対する債権を受働債権として、BのAに対する債権を自働債権とする相殺ができますという意味です。
私は、この問題については、ここまでの理解で宅建では十分だと思います。だから、「その弁済期の先後にかかわらず」というのは、あまり気にしない。
念のため、解説しておきますと、A→B債権と、B→A債権について、B→A債権の「取得」時期が、差押の「後」であればBは相殺できないという点に争いはありませんが、B→A債権の取得時期が、差押の「前」でありさえすれば、相殺できるのかというのは、争いがあります。
つまり、B→A債権の「取得」時期が、差押の前であっても、A→B債権と、B→A債権の「弁済期」の先後で相殺ができる、又は、できないというのは争いがあるようです。
問題文の「その弁済期の先後にかかわらず」というのは、この点を問うているわけです。これについて、実はいろいろな学説があり、また、それに合わせて判例も変遷を重ねたようです。しかし、現在では、自働債権(B→A債権)及び受働債権(B→A債権)の弁済期の前後を問わず、相殺を認めているようです。ただ、宅建試験では、そこまで細かいことまで気にする必要はないでしょう。
気になる方は、この部分の覚え方として、
自働債権(B→A債権)の「取得」の時期が、差押の後であれば、第三債務者は相殺できないが、
自働債権の「取得」の時期が、差押の前であれば、第三債務者は(自働債権及び受働債権の弁済期の前後を問わず)相殺できる。
と覚えておけばいいでしょう。今までの知識に、(自働債権及び受働債権の弁済期の前後を問わず)という部分をちょっと挿入しておくわけですね。
*民法511条1項
2 誤り。建物の抵当権者が、物上代位権を行使して当該建物の賃料債権を差し押さえた後は、建物の賃借人は、抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と、差し押さえにかかる賃料債務とを相殺することはできない。
*民法511条1項
3 誤り。敷金は、契約終了後、目的物の引渡しがなされたときに、賃料の不払等を差し引いて、残額を賃貸人から賃借人に返還されるものであり、たとえ賃料債務が差し押さえられていたとしても、賃借人は敷金の充当による消滅を抵当権者に対抗することができる。
*民法622条の2第1項1号
4 誤り。債務者は、対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる。したがって、BのAに対する債権は、Bが債権譲渡の通知を受けるまでに取得しているので、BはCに対して相殺を主張することができる。
*民法469条1項
【解法のポイント】この問題は、結構難易度が高い問題だと思います。しかし、肢1の正解肢は、過去に出題されているので、とにかく肢1が「正しい」ということだけは分かるようにしておかないといけません。なお、肢4については、前問の【問5】と重なっていますね。