宅建 過去問解説 平成20年 問1
【じっくり解説】
この問題を通して、行為能力者制度について、しっかり理解して下さい。
まず、意思能力のない人が締結した契約等は無効で効力が認められませんが、実はこれだけでは判断能力のない人の保護には十分ではありません。たとえば、高齢で痴呆になった人が、「前に締結した契約は、意思能力がなかったので、無効だ!」と主張しても、相手は当然それを否定してくるでしょう。その場合、契約をするときに判断能力がなかったというのを証明するのは大変です。要するに、契約をするには意思能力というものが必要ですが、契約時に意思能力があったか、なかったかというような判断は非常に難しい。そこで、契約等を行う判断能力が十分でないものを、あらかじめ「形式的」に決めておいて、これらの者が契約を行った場合は、一律取り消せるとしておけば、判断能力がない者の保護になります。それだけではなく、そのような者と取引をする相手方も警戒することができて、相手方の保護にもなります。
このように制限行為能力者であるかどうかは、「形式的」に判断されるます。意思能力があるかどうかは判断が難しい、そこで判断能力のない者を「あらかじめ形式的」に決めておいて、制限行為能力者ならば一律取り消せるとしたわけです。したがって、制限能力者かどうかは形式的に明確に判断できないと制限能力者の保護になりません。また、制限能力者と契約をしようとする相手方も、明確にこの人は制限能力者だと分かれば、「この人と契約すれば、後で取り消されるかもしれないので、契約は控えておこう。」ということになり、相手方も警戒することができるわけです。
そして、本問の成年被後見人のような精神的な障害がある人というのは、実質的な判断になりそうですが、このような精神的な障害がある人も、形式的に決めます。どうするかというと、本人や親族等が家庭裁判所に審判というのを申し立てて、この人は、たとえば痴呆になっています、一人で契約等をさせると危ないので、成年被後見人に認定して下さい、というわけです。そして、家庭裁判所が、「なるほどこの人は判断能力がないな」と思えば、「成年被後見人」と認めてくれるわけです。つまり、家庭裁判所が認めたかどうかは、形式的な判断です。
以上を前提本問を見ると、「成年被後見人が行った法律行為は、取り消すことができる。」という部分は何の問題もなく「○」ということになります。ただ、「事理を弁識する能力がある状態で行われたものであっても」というのが、間に入っているので、この部分が考えさせるところですが、成年被後見人かどうかは、形式的に判断され、家庭裁判所の審判があれば、実際に「事理を弁識する能力がある状態で行われたものであっても」、この行為は取り消すことができます。
なお、問題文の最後の「日常生活に関する行為」については、取り消すことはできません。これは、これでよく出題されますので覚えておいて下さい。以上より、トータルとしてこの問題は「正しい」ということになります。
【じっくり解説】
宅建の問題としては、細かい問題になりますが、過去問に出題されているので、気になる人向けの解説になります。
被補助人は、「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」です。制限能力者の中では、本人の能力が最も高くなります。この被補助人になるには、家庭裁判所の審判が必要ですが、この審判の請求は本人だけでなく、「配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官」も行うことができます(民法15条1項)。しかし、本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければいけません(第2項)。
上記の表を見て下さい。左に請求権者が列挙されています。本人が補助開始の審判を請求しているときは、本人の同意は問題になりません。当たり前です。そして、それ以外の場合に、本人の同意が必要だということは、補助開始の審判の請求については、すべて本人の意思が尊重されるということです。これは、まさに制限行為能力者の中でも被補助人が最も能力が高く、ある程度の判断能力があることの現れです。ということで、本日の問題は「誤り」ということになります。