下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。

宅建 過去問解説 平成19年 問5

【問 5】 不法行為による損害賠償に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

1 不法行為による損害賠償の支払債務は、催告を待たず、損害発生と同時に遅滞に陥るので、その時以降完済に至るまでの遅延損害金を支払わなければならない。

2 不法行為によって名誉を毀損された者の慰謝料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなかった場合でも、相続の対象となる。

3 加害者数人が、共同不法行為として民法第719条により各自連帯して損害賠償の責任を負う場合、その1人に対する履行の請求は、他の加害者に対してはその効力を有しない。

4 不法行為による損害賠償の請求権の消滅時効の期間は、権利を行使することができることとなった時から10年である。

【解答及び解説】

【問 5】 正解 4

1 正しい。不法行為による損害賠償債務は、期限の定めのない債務とされる。そして通常、期限の定めのない債務は、債権者から請求を受けた時から遅滞に陥るが、不法行為による損害賠償債務は、損害発生と同時に遅滞に陥る(判例)。したがって、損害発生時以降完済に至るまでの遅延損害金を支払わなければならない。

【じっくり解説】

この問題は、債務不履行の履行遅滞で、遅滞に陥る時期を問うものです。結論から言うと、不法行為による損害賠償請求権は、損害発生と同時に履行遅滞に陥るものとされ(判例)、したがって、損害発生時から遅延損害金も発生しますので、本問は「正しい」ということになります。

だいたい宅建のテキストでは、このような書き方で、結論はわかるけど「理解」という点では「?」という感じの人が多いでしょう。そもそも不法行為による損害賠償請求権は「期限の定めのない債務」と言われます。まあ、これはそうでしょう。不法行為というのは、突発的に起こるものであって、たとえば事故の損害賠償金について支払期限を定めてから事故を起こす人というのはいないでしょう。

そして、一般的に期限の定めのない債務は、いつから履行遅滞になるのか、というのが、最初の問題点です。これについては、意外ですが、少なくとも私が調べた平成に入ってからの宅建本試験で直接問われたことはないと思います。そこで、一般的に期限の定めのない債務は、いつから履行遅滞になるのか、という点から解説します。

まず、期限の定めのない債務は、債権者は「いつでも請求」できます。だから、債権者は「いつでも権利行使可能」ということで、消滅時効の起算点の話のときには、債権成立の時から消滅時効は進行するということになります。

そして、本問のいつから履行遅滞になるのかという問題では、債務者の立場から考えます。つまり、いつから履行遅滞になるのかという問題は、債務者は履行遅滞の効果である解除や損害賠償を請求されてもやむを得ないのはいつなのか?というのが履行遅滞になる時期の問題です。ということは、債権者から何も請求されていない段階で、「履行遅滞だ。だから損害賠償しろ!」と言われても困ります。債権者が請求しているにもかかわらず、それを無視して履行しない場合には、これは責任を追及されても仕方がありません。そこで、「債権者の請求があった時」から履行遅滞になります。

以上が、一般的に期限の定めのない債務は、いつから履行遅滞になるのかという問題です。

それでは、その理屈を同じ期限の定めのない債務である不法行為による損害賠償請求にも、そのまま当てはめていいのか、ということです。これは、最初に書きましたように、判例は、不法行為による損害賠償請求権は、債権者(つまり被害者)が請求したときからではなく、「損害発生と同時に履行遅滞に陥る」としています。

その理由ですが、あまりややこしいことを書いても、かえって混乱するだけなので、非常にシンプルで他でも応用が効きそうな覚え方を説明しましょう。不法行為の趣旨として、被害者救済というのがあります。不法行為による損害賠償請求権について、被害者(債権者)は、請求をする前に、損害発生と同時に債務者(加害者)が履行遅滞に陥るとした方が、早い時期から履行遅滞になるので、本問にあるように遅延損害金がすぐに発生します。したがって、判例の言うように「損害発生と同時に履行遅滞に陥る」とした方が被害者救済になります。

*民法412条3項

2 正しい。不法行為によって名誉を毀損された者の慰謝料請求権も、金銭債権であり、一身専属権とはいえず、被害者が生前に請求の意思表示をしなかった場合でも、相続の対象となる。
*民法896条

3 正しい。共同不法行為による加害者の損害賠償債務は、各債務者が連帯して賠償の義務を負うが、その性質は不真正連帯債務とされる(判例)。不真正連帯債務は、通常の連帯債務と異なり、債権が満足するもの以外は絶対効を生じない。したがって、加害者の一人に対する履行の請求は、他の加害者に対してはその効力を生じない。
*民法719条1項

4 誤り。不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき、または不法行為の時から20年を経過したときは、時効によって消滅する。
*民法724条2号


【解法のポイント】この問題の肢4は知識として押さえておかなければならないところで、正解は出せる問題です。しかし、肢1~肢3についてはなかなかレベルの高い問題ですね。肢1~肢3も今後これが正解肢となるような問題が出題される可能性もあります。