宅建 過去問解説 平成19年 問5
【じっくり解説】
この問題は、債務不履行の履行遅滞で、遅滞に陥る時期を問うものです。結論から言うと、不法行為による損害賠償請求権は、損害発生と同時に履行遅滞に陥るものとされ(判例)、したがって、損害発生時から遅延損害金も発生しますので、本問は「正しい」ということになります。
だいたい宅建のテキストでは、このような書き方で、結論はわかるけど「理解」という点では「?」という感じの人が多いでしょう。そもそも不法行為による損害賠償請求権は「期限の定めのない債務」と言われます。まあ、これはそうでしょう。不法行為というのは、突発的に起こるものであって、たとえば事故の損害賠償金について支払期限を定めてから事故を起こす人というのはいないでしょう。
そして、一般的に期限の定めのない債務は、いつから履行遅滞になるのか、というのが、最初の問題点です。これについては、意外ですが、少なくとも私が調べた平成に入ってからの宅建本試験で直接問われたことはないと思います。そこで、一般的に期限の定めのない債務は、いつから履行遅滞になるのか、という点から解説します。
まず、期限の定めのない債務は、債権者は「いつでも請求」できます。だから、債権者は「いつでも権利行使可能」ということで、消滅時効の起算点の話のときには、債権成立の時から消滅時効は進行するということになります。
そして、本問のいつから履行遅滞になるのかという問題では、債務者の立場から考えます。つまり、いつから履行遅滞になるのかという問題は、債務者は履行遅滞の効果である解除や損害賠償を請求されてもやむを得ないのはいつなのか?というのが履行遅滞になる時期の問題です。ということは、債権者から何も請求されていない段階で、「履行遅滞だ。だから損害賠償しろ!」と言われても困ります。債権者が請求しているにもかかわらず、それを無視して履行しない場合には、これは責任を追及されても仕方がありません。そこで、「債権者の請求があった時」から履行遅滞になります。
以上が、一般的に期限の定めのない債務は、いつから履行遅滞になるのかという問題です。
それでは、その理屈を同じ期限の定めのない債務である不法行為による損害賠償請求にも、そのまま当てはめていいのか、ということです。これは、最初に書きましたように、判例は、不法行為による損害賠償請求権は、債権者(つまり被害者)が請求したときからではなく、「損害発生と同時に履行遅滞に陥る」としています。
その理由ですが、あまりややこしいことを書いても、かえって混乱するだけなので、非常にシンプルで他でも応用が効きそうな覚え方を説明しましょう。不法行為の趣旨として、被害者救済というのがあります。不法行為による損害賠償請求権について、被害者(債権者)は、請求をする前に、損害発生と同時に債務者(加害者)が履行遅滞に陥るとした方が、早い時期から履行遅滞になるので、本問にあるように遅延損害金がすぐに発生します。したがって、判例の言うように「損害発生と同時に履行遅滞に陥る」とした方が被害者救済になります。