下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。

宅建 過去問解説 平成18年 問8

【問 8】 AはBとの間で、土地の売買契約を締結し、Aの所有権移転登記手続とBの代金の支払を同時に履行することとした。決済約定日に、Aは所有権移転登記手続を行う債務の履行の提供をしたが、Bが代金債務につき弁済の提供をしなかったので、Aは履行を拒否した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

1 Bは、履行遅滞に陥り、遅延損害金支払債務を負う。

2 Aは、一旦履行の提供をしているので、これを継続しなくても、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内にBが履行しないときは土地の売買契約を解除できる。

3 Aは、一旦履行の提供をしているので、Bに対して代金の支払を求める訴えを提起した場合、引換給付判決ではなく、無条件の給付判決がなされる。

4 Bが、改めて代金債務を履行するとして、自分振出しの小切手をAの所に持参しても、債務の本旨に従った弁済の提供とはならない。

【解答及び解説】

【問 8】 正解 3

1 正しい。Bは期日に履行の提供をしておらず、一方、相手方であるAは履行の提供をしているので、Bには同時履行の抗弁権はなく、Bの遅滞は違法となるので、履行遅滞に陥り、遅延損害金支払義務を負う。
*民法412条

2 正しい。Aは一旦履行の提供をしているので、これを継続しなくても、いつでも履行の提供ができる状態であれば、相当の期間を定めて履行を催告し、解除することができる。

【じっくり解説】

この問題は、非常に「深い」内容の出題なんですが、あまり「深み」にはまりこまないように注意して説明しましょう。

A=売主、B=買主で、売主Aは履行の提供をしたけれども、買主Bは代金を提供しなかったので、売主は同時履行の抗弁権を行使して履行を拒否したという事例です。ここまでは、簡単。

次に、買主は債務不履行をしているので、売主は契約を解除しようとするわけですが、履行遅滞なので、相当の期間を定めて催告した上で解除ですが、このときに履行の提供を継続していなくても解除できるかという問題です。

問題文では、「Aは所有権移転登記手続を行う債務の履行の提供をした」とありますが、売主の移転登記について、「履行の提供」とは何か?というのは、実はなかなか難しい問題のようです。このへんの問題作成者の文章というのは、なかなか素晴らしく、疑義が生じないように「所有権移転登記手続を行う債務の履行の提供をした」とうまくボカしていますが、売主が登記書類を準備して登記所に出頭すれば、履行の提供と認められるでしょう。そして、問題を考えると、これは普通に考えて、履行の提供を継続しなくても、「契約を解除できる」となると思います。

売主から見ると、履行を継続していないと解除できないということであれば、上記の例で言うと、毎日登記所に行っていなければいけません。そんなことをしなくても買主が代金を持ってくれば、いつでも登記できるように登記書類等を用意しておけばいいでしょう。したがって、本問は「正しい」ということになります。

ということで、具体的なイメージも湧いたと思いますので、試験としては、この程度でいいかな?と思います。以下は、知識を確認する意味で、雑談的に読んでいただければ結構です。

先ほどの例で、売主は履行の提供を継続している必要はないと書きましたが、逆に一度履行遅滞をした買主が代金を支払いに来たとします。このときに、履行の提供を継続していない売主が、履行の提供をしなければ、買主は同時履行の抗弁権を主張して、代金の支払いを拒めるか?という問題があります。

判例はこれを肯定します。買主は一度履行遅滞に陥っているとはいえ、売主が履行の提供を継続していない以上、自分だけ先に代金を支払う必要はないからです。それでは、売主は一度履行の提供をして買主を履行遅滞に陥れているので、催告して解除できるのか?つまり、履行の提供を継続していなくても契約を解除できるのか?というのが本問だったわけです。そして、先ほど書きましたように、「解除できます」ということです。

何か、同じ話が循環しているようですが、この売主の解除には、「3日以内に代金を支払え」という催告が必要ですので、買主は、3日以内に代金を支払えば、話は収束します。

*民法541条

3 誤り。Aの所有権移転登記手続とBの代金の支払は同時履行の関係にあるので、AがBに対して訴えを提起し、勝訴判決を得る場合でも、同時履行の関係を反映し、無条件の給付判決ではなく、引換給付判決がなされる。
*民法533条

4 正しい。債務の履行は、債務の本旨に従ったものでなければならない。Bの支払は金銭によるものであり、自分振出しの小切手を持参しても、債務の本旨に従った弁済の提供とはいえない。
*民法415条


【解法のポイント】この問題も難しいと感じた人もいるかと思いますが、正解肢である肢3は、わざわざ「引換給付判決ではなく」と書いてくれているので、気が付いて欲しいところです。