下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。

宅建 過去問解説 平成16年 問33

【問 33】 宅地建物取引業者A社(甲県知事免許)の宅地建物取引士は、専任の宅地建物取引士であるBのみである。次の記述のうち、宅地建物取引業法の規定によれば正しいものはどれか。

1 A社が有限会社から株式会社に組織変更を行った場合、A社は甲県知事に対して宅地建物取引業者名簿の変更の届出が必要であるが、Bは宅地建物取引士資格登録簿の変更の登録を申請しなくてもよい。

2 A社が事務所を乙県に移転したため、乙県知事の免許を取得した場合、Bは宅地建物取引士資格登録簿の変更の登録を申請しなければならない。

3 A社の専任の宅地建物取引士がBからCに交代した場合、A社は2週間以内に甲県知事に対して、宅地建物取引業者名簿の変更の届出を行わなければならない。

4 A社には専任の宅地建物取引士がBしかいないため、別の宅地建物取引業者D社が売主となる50戸のマンション分譲の代理に係る業務を、A社とD社が共同で設置する案内所で行うことはできない。

【解答及び解説】

【問 33】 正解 2

1 誤り。A社が有限会社から株式会社に組織変更を行っているので、商号が変更になっており、宅地建物取引業者は宅地建物取引業者名簿の変更の届出が必要となる。そして、宅地建物取引士Bにとっても、その業務に従事する宅地建物取引業者の商号が変更になっているので変更の登録を申請しなければならない。なお、組織変更は、会社の法人格の同一性を保持したまま、他の種類の会社にすることをいうので、本肢は新規免許の取得の問題ではない。
*宅地建物取引業法8条2項2号、9条、20条、同法施行規則14条の2第1項5号

2 正しい。宅地建物取引士資格登録簿には、「宅地建物取引業者の業務に従事する者にあっては、当該宅地建物取引業者の商号又は名称及び免許証番号」を登録しなければならない。A社は事務所の移転に伴い、乙県知事の免許を取得しているので、免許証番号が変更になっている。したがって、宅地建物取引士資格登録簿の記載事項が変更になったので、Bは、変更の登録をしなければならない。

【じっくり解説】

この問題は、あっさり「×」とした人が多かったのではないかと思います。宅地建物取引士資格登録簿には、「宅地建物取引業者の業務に従事する者にあっては、当該宅地建物取引業者の商号又は名称及び免許証番号」を登録しなければならないことになっていますが、Bが勤務しているA社は免許換えはしていますが、BがA社の勤務であるこに変わりはありません。したがって、「業務に従事する宅地建物取引業者に変更なし」→「変更の登録なし」という流れで、「×」ということですね。

ここに落とし穴があります。宅地建物取引士登録簿の記載事項を正確にもう一度見て下さい。「宅地建物取引業者の業務に従事する者にあっては、当該宅地建物取引業者の商号又は名称及び免許証番号」です。最後に「当該宅地建物取引業者の商号又は名称」だけでなく、「免許証番号」というのがあります。

この「免許証番号」というのは、具体的には、

「大阪府知事免許(3)第12345号」

というような形になります。

つまり、免許証番号には、免許権者も書かれるわけですね。したがって、免許換え=免許証番号の変更になるわけです。ということで、本問ではA社は免許換えを行っているので、A社に勤務している宅地建物取引士Bは、宅地建物取引士登録簿の変更の登録を申請する必要があるので、「正しい」ということになります。

*宅地建物取引業法20条、同法施行規則14条の2第1項5号

3 誤り。宅地建物取引業者の専任の宅地建物取引士の氏名は、宅地建物取引業者名簿の記載事項であり、専任の宅地建物取引士がBからCへ交代すれば、A社は宅地建物取引業者名簿の変更の届出を行わなければならないが、それは「2週間以内」ではなく、「30日以内」である。
*宅地建物取引業法8条2項6号、9条

4 誤り。宅地建物取引業者は、案内所にはその業務に従事する者の数に関係なく、1人以上の成年者である専任の宅地建物取引士を置かなければならない。そして、この案内所への専任の宅地建物取引士の設置義務に関して、宅地建物取引業者が売主となる売買契約を、他の宅地建物取引業者が代理又は媒介して、案内所を共同で設置する場合には、自ら売主となる宅地建物取引業者及び代理・媒介業者の両方に専任の宅地建物取引士の設置義務が課せられるが、案内所に設置しなければならない専任の宅地建物取引士は1人であるから、どちらかの宅地建物取引業者が1人の専任の宅地建物取引士を設置すれば、他方の宅地建物取引業者も専任の宅地建物取引士の設置義務を果たしていることになる。したがって本肢の場合、D社が1人の専任の宅地建物取引士を設置すれば、A社は自ら専任の宅地建物取引士を設置しなくても、その義務を果たしていることになるので、BはA社の事務所の専任の宅地建物取引士のままでも、D社と共同で案内所を設置することができる。

【じっくり解説】

この問題は、専任の宅地建物取引士は、契約の締結等を予定している案内所では、「一人」おけばよい、という程度の知識しかない人は、「???」ということだと思います。この問題は、そこをもっと突っ込んでいます。しかし、今から説明する程度の知識は現在の宅建試験では必要です。そして、この問題は意外に広がりを持っているので、しっかりと理解しておけば、簡単ですし、他にも応用がききます。

ということで「じっくり」解説しますと、まず、自ら売主のD社と代理業者のA社のどちらが案内所に専任の宅地建物取引士を設置しなければならないか?です。結論から言うと、この問題では、D社とA社の両方に専任の宅地建物取引士の設置義務があります。

なぜかという、案内所に専任の宅地建物取引士を設置する義務は、案内所を「設置した業者」にあるからです。そんなこと、条文のどこに書いてあるんだ?ということですが、それは専任の宅地建物取引士の設置義務のある場所として、案内所が挙げられていますが、その際、「案内所を設置して行う場合にあっては、その案内所」という表現になっているということだと思います(宅建業法施行規則6条の2第2号・3号)。分譲業者(自ら売主のこと)であれ、代理・媒介業者であれ、案内所を「設置」するのであれば、その案内所に専任の宅地建物取引士を置け!という条文になっているということですね。したがって、案内所の「設置」業者に専任の宅地建物取引士の設置義務があるということになります。

そこで、問題文を見てみると、「A社とD社が共同で設置する案内所」となっていますので、A社もD社も案内所の設置業者であり、両者ともに専任の宅地建物取引士の設置義務があります。

ところで、案内所には、業務に従事する者の数に関係なく、専任の宅地建物取引士は「一人」置けばよいことになっています。それでは、A社とD社の両方に専任の宅地建物取引士の設置義務があるのであれば、A社から一人、D社から一人、合計二人の専任の宅地建物取引士を本問の案内所に置かなければならないのか?というのが次に問題になります。これには、実は「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」という通達などを整理したものがあって、そこに、「複数の宅地建物取引業者が設置する案内所について」という部分があり、ズバリ答えが記載されています。

「同一の物件について、売主である宅地建物取引業者及び媒介又は代理を行う宅地建物取引業者が同一の場所において業務を行う場合には、『いずれかの』宅地建物取引業者が専任の宅地建物取引士を1人以上置けば法第15条第1項の要件を満たすものとする。」

つまり、A社とD社の両方に専任の宅地建物取引士の設置義務があるが、どちらか一方が設置すれば、他方も設置義務を満たしているということになります。A社とD社が譲り合って、一人も設置しなければ、両方とも宅建業法違反ということになるわけです。ということで、本問を見てみましょう。

A社の宅地建物取引士は、専任の宅地建物取引士であるBのみであるとしても、D社が案内所に専任の宅地建物取引士を一人設置すれば、A社は何もしなくても、専任の宅地建物取引士の設置義務を満たすことができるので、本問の案内所で「マンション分譲の代理に係る業務を、A社とD社が共同で設置する案内所で行うこと」はできます。したがって、本問は「誤り」ということになります。

最後に、この問題は他にも応用がきくということを書きましたが、その点について触れましょう。実は、案内所を「設置」した業者が、「義務」を負うというのは、この専任の宅地建物取引士の設置義務だけではありません。標識の掲示義務も、業務を行う場所(案内所等)の届出も、実は案内所を設置した業者のみに義務付けられます。

*宅地建物取引業法31条の3第1項、同法施行規則6条の2、同規則6条の3


【解法のポイント】この問題は、肢2と肢4の出題に工夫があって、間違え人も結構いるのではないかと思います。肢2は、宅地建物取引士の登録事項として勤務する宅建業者の「登録番号」という観点からの出題は初めてではなかったと思います。また、案内所には一人の専任の宅地建物取引士を置けばいいというのは、覚えておかなければいけない知識ですが、それを直接には聞いてこなかったので気付きにくかったと思います。いい問題だと思いますので、しっかり復習しておいて下さい。