下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。

宅建 過去問解説 平成16年 問8

【問 8】 Aは、B所有の建物を賃借し、毎月末日までに翌月分の賃料50万円を支払う約定をした。またAは敷金300万円をBに預託し、敷金は賃貸借終了後明渡し完了後にBがAに支払うと約定された。AのBに対するこの賃料債務に関する相殺についての次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

1 Aは、Bが支払不能に陥った場合は、特段の合意がなくても、Bに対する敷金返還請求権を自働債権として、弁済期が到来した賃料債務と対当額で相殺することができる。

2 AがBに対し悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権を有した場合、Aは、このBに対する損害賠償請求権を自働債権として、弁済期が到来した賃料債務と対当額で相殺することはできない。

3 AがBに対して商品の売買代金請求権を有しており、それが平成16年9月1日をもって時効により消滅した場合、Aは、同年9月2日に、このBに対する代金請求権を自働債権として、同年8月31日に弁済期が到来した賃料債務と対当額で相殺することはできない。

4 AがBに対してこの賃貸借契約締結以前から貸付金債権を有しており、その弁済期が平成16年8月31日に到来する場合、同年8月20日にBのAに対するこの賃料債権に対する差押があったとしても、Aは、同年8月31日に、このBに対する貸付金債権を自働債権として、弁済期が到来した賃料債務と対当額で相殺することができる。

【解答及び解説】

【問 8】 正解 4

1 誤り。相殺によって債務の消滅を主張するには、自働債権は弁済期にあることが必要である。そして、本肢でAは、Bに対する敷金返還請求権を自働債権として相殺を主張しているが、敷金返還請求権はあくまで賃貸借終了後明渡し後に発生するものである。目的物明渡し後でなければ、敷金返還請求権の金額が確定しないからである。したがって、Aの自働債権は弁済期にはなく、Aは相殺することができない。
*民法505条1項

2 誤り。悪意による不法行為に基づく損害賠償債権を受働債権として相殺することは禁止されている。不法行為に基づく損害賠償権は債権者に現実に金銭で賠償する必要があるからである。これに対して、悪意による不法行為に基づく損害賠償権を自働債権として相殺することは認められる。債権者である被害者自ら相殺を望めば、これを否定する理由はないからである。
*民法509条

3 誤り。時効によって消滅した債権が、その消滅以前に相殺適状にあった場合には、債権者はその時効消滅した債権を自働債権として相殺をすることができる。一旦両債権が相殺適状にあった以上、両債権が精算されたという当事者の期待は保護されるべきだからである。
*民法508条

4 正しい。差押のような支払の差止を受けた第三債務者は、その後に取得した債権により相殺をもって差押債権者に対抗することができない。なぜならば、債権を差し押さえても、その差し押さえた債権が相殺により消滅してしまえば、差押債権者の利益を害するからである。しかし、債権が差し押えられた場合において、第三債務者が債務者に対して反対債権を有していたときは、その債権が差押前に取得されたものであれば、差押債権者はいわば相殺適状にある債権を差し押さえたのであり、この反対債権および被差押債権の弁済期の前後を問わず、両債権が相殺適状に達しさえすれば、第三債務者は、差押後においても、右反対債権を自働債権として、被差押債権と相殺することができる。本肢では差し押さえられたBのAに対する賃料債権が発生する以前に、AはBに対して反対債権である貸金債権を取得しており、AはBに対する貸金債権を自働債権として相殺することができる(最判昭和45.6.24)。
*民法511条1項


【解法のポイント】この問題は、肢2と肢3はスッと答えが出ると思いますが、肢1と肢4はちょっと考える問題かもしれません。その意味で難易度は高いと思います。ただ、肢4の条文は過去問で出題されていますので、過去問はやはり重要ですね。