下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。

宅建 過去問解説 平成13年 問10

【問 10】 甲建物の占有者である(所有者ではない。)Aは、甲建物の璧が今にも剥離しそうであると分かっていたのに、甲建物の所有者に通知せず、そのまま放置するなど、損害発生の防止のため法律上要求される注意を行わなかった。そのために、璧が剥離して通行人Bが死亡した。この場合、Bの相続人からの不法行為に基づく損害賠償請求に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

1 Bが即死した場合、B本人の損害賠償請求権は観念できず、その請求権の相続による相続人への承継はない。

2 Bに配偶者と子がいた場合は、その配偶者と子は、Bの死亡による自己の精神上の苦痛に関し、自己の権利として損害賠償請求権を有する。

3 Bの相続人は、Aに対しては損害賠償請求ができるが、甲建物の所有者に対しては、損害賠償請求ができない。

4 璧の剥離につき、璧の施工業者にも一部責任がある場合には、Aは、その施工業者に対して求償権を行使することができる。

【解答及び解説】

【問 10】 正解 1

1 誤り。たとえBが即死した場合であっても、B自身の損害賠償請求権を観念することはでき、その請求権を相続人は承継することができる。
*民法896条

2 正しい。他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。したがって、被害者の配偶者と子は、被害者の死亡による自己の精神的苦痛に関して、自己の損害賠償請求権を有する。
*民法711条

3 正しい。Bの相続人は、Bの権利を相続するので、Bが甲建物の所有者に対して損害賠償請求ができるかどうかを検討すると、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、占有者ではなく、所有者が無過失責任を負わなければならないが、本問ではAに過失があるので(建物の璧が剥離しそうであるのに、そのまま放置している)、Bは甲建物の所有者に対しては損害賠償請求をすることができない。
*民法717条1項

4 正しい。工作物の占有者又は所有者が損害賠償の責めを負うときに、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
*民法717条3項


【解法のポイント】一つの事例について、相続人の不法行為に基づく損害賠償請求権と工作物責任を問う工夫のある問題です。肢3と肢4はできなければなりませんが、肢1と肢2は初めての出題で戸惑った人も多かったと思います。素直に常識的に考えれば、知らなくても正解は出せたと思いますが…