宅建 過去問解説 平成13年 問7
【じっくり解説】
これについては、結論からいうと「誤り」ということになります。根拠は民法392条1項の規定です。
この問題の前提として、このように一つの被担保債権の担保として複数の不動産に抵当権を設定することを共同抵当といいますが、このような共同抵当の場合には、抵当権者は基本的にどの不動産からどのように抵当権の実行による配当を受けてもよいはずです。これを不可分性といいました。
しかし、共同抵当権者が自由に配当を受ければ、それぞれの不動産に後順位抵当権者がいた場合に、その後順位抵当権者が配当を受けられなくなるおそれがあります。
たとえば、甲地の2番抵当権者の被担保債権が375万円だったとします。Bが甲地の競売代金から1,500万円全額の配当を受ければ、甲地の2番抵当権者の配当はゼロです。
本肢の競売代金は甲・乙・丙併せて4,000万円あるわけですから、Bが別の配当の受け方をすれば、甲地の2番抵当権者は配当を受けることができたはずなのに、Bが甲地から1,500万円全額の配当を受ければ、甲地の2番抵当権者の配当はゼロになり、Bの意思によって甲地の2番抵当権者が配当を受けることができたり、できなかったりします。
このような共同抵当権者の意思によって後順位抵当権者が影響を受けないように、民法392条1項は「債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、同時にその代価を配当すべきときは、その各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分する。」と規定しています。
したがって、「Bはその選択により、甲地及び乙地の代金のみから優先的に配当を受けることができる」という本肢は「誤り」ということになります。丙建物からも配当を受ける必要があります。
本問の解決は、ここまでで終わりですが、一応念のために、本問の具体的な配当の受け方について、数字も含めてまとめておきます。
Bの被担保債権は、3,000万円で、甲(競売代金1,500万円)・乙(競売代金2,000万円)・丙(競売代金500万円)の競売代金の合計は4,000万円です。
Bの被担保債権額3,000万円を、それぞれ甲・乙・丙の価額に応じて分配するので、Bが受ける配当は以下のようになります。
甲:3,000万円×1,500万円/4,000万円=1,125万円
乙:3,000万円×2,000万円/4,000万円=1,500万円
丙:3,000万円×500万/4,000万円=375万円
これによって、甲地の2番抵当権者も375万円の弁済を受けることができます。
【じっくり解説】
肢1のように甲・乙・丙を同時に競売にかける場合を同時配当といいますが、本肢では甲地のみについて競売していますので、このような場合を異時配当といいます。
このような異時配当においては、「抵当権者(B)は、その代価(甲地の競売代金)から債権の全部の弁済を受けることができる」(民法392条2項)としています。
前肢で書きましたように、共同抵当の場合には、抵当権者は基本的にどの不動産からどのように抵当権の実行による配当を受けてもよい(不可分性)からです。
ということで、本問の結論としては、「正しい」ということになります。
この問題は、問われているのはここまでですので、とりあえず宅建の勉強としては、これでよいと思います。しかし、この結論に疑問を感じる人もいると思いますので、この続きについても説明しておきますが、かなり難しくなりますので、ほとんどの方は気にしなくてもよいと思います。
ということで、気になる方のために解説を続けると、実は、先ほどの条文には続きがあって、「この場合において、次順位の抵当権者は、その弁済を受ける抵当権者が同時配当(前回肢1の解説の内容)の規定に従い他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使することができる。」としています。具体的に数字を挙げながら説明しましょう。
肢1の事例を参考に具体例を挙げますと、甲地の競売代金は問題文にあるように1,500万円ですが、乙地の競売代金2,000万円、丙建物の競売代金500万円となったとします。そして、甲地には被担保債権額が375万円の2番抵当権が設定されていたとします。
同時配当の場合は、各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分するので、以下のようになります(前回の内容)。
甲:3,000万円×1,500万円/4,000万円=1,125万円
乙:3,000万円×2,000万円/4,000万円=1,500万円
丙:3,000万円×500万/4,000万円=375万円
本問では、甲地のみが競売され、Bが1,500万円の弁済を受けているので、甲地の2番抵当権者は1円の弁済も受けていません。そこで、たとえば、次に乙地と丙地が競売されるとすれば、甲地の2番抵当権者は、Bが乙地から弁済を受けるべき金額の1,500万円を限度として弁済を受けることができますが、もともとBの被担保債権額は3,000万円であり、1,500万円の残額があるので乙地について、Bが1,500万円の弁済を優先的に受けることになります。
ただ、Bが乙地から1,500万円の優先弁済を受ければ、Bは満足してそれ以上の配当を受けることはないので、甲地の2番抵当権者は、丙地についてBが同時配当の場合に受けることができた金額の375万円の弁済を受けて、うまくまとまります。