宅建 過去問解説 平成12年 問32
【じっくり解説】
この問題を単純に「○」としてはいけません。この「条件を付す」というのは、宅地建物取引業の「免許」については宅建業法に規定がありますが、宅地建物取引士の「登録」や「宅地建物取引士証の交付」については規定がありません。規定がないということは、宅地建物取引士の登録や宅地建物取引士証の交付の際には、条件を付することはできないということで、その条件に違反するということもあり得ないので「×」ということになります。
ところで、宅地建物取引業の免許には条件を付けることができますが、その条文は宅建業法3条の2「国土交通大臣又は都道府県知事は、免許(免許の更新を含む。)に条件を付し、及びこれを変更することができる。」というものです。
「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」には、この「条件」の例として「免許の更新に当たって、過去5年間の宅地建物取引の実績がない者に対し、免許直後1年の事業年度における宅地建物取引業の取引の状況に関する報告書を当該事業年度の終了後3月以内に提出すること」等というのが例として挙げられています。
これは、もともと宅地建物取引業の免許を取得するには、特に何かの試験に合格していなければならないとか、実務経験が必要だというような要件はありません。免許の基準(欠格事由)に該当しなければ誰でも宅地建物取引業の免許を取得することができます。これは、宅地建物取引士とは決定的に異なります。
宅地建物取引士は、宅建試験に合格していないとなることはできませんし、宅地建物取引士の登録をする際には実務経験(あるいはそれと同等以上の能力)が必要です。
宅地建物取引士=試験に合格+実務経験等+登録の基準
宅地建物取引業者=免許の基準のみ
ということになるわけです。したがって、宅地建物取引業者というのは、宅地建物取引の経験が全くない人が、いきなり免許を取得するということも可能になります。そして、免許権者には、免許の申請者に宅地建物取引の経験がないということは分かります。というのは、免許申請書の添付書類の中に「宅地建物取引業経歴書」(宅建業法4条2項1号)というのがあるからです。このような場合でも、免許の基準(欠格事由)に該当しない以上、免許権者としては免許を与えざるを得ません。しかし、このような宅地建物取引の経験のない人に免許を与えると、本当に適正な宅地建物取引ができるのか、免許権者としても不安です。そこで、免許に上記の例に挙げたような「条件を付す」ことができることになっているわけです。
ちなみに、この宅地建物取引業の免許の条件に違反した場合は、「任意的」免許取消処分事由です(宅建業法66条2項)。
ここまで読んでいただければ、宅地建物取引士の登録や宅地建物取引士証の交付に「条件を付す」旨の規定がない理由は理解できたと思いますし、宅地建物取引業者と宅地建物取引士の違いについても理解が深まったと思います。