宅建 過去問解説 平成12年 問3
【じっくり解説】
本問に関する条文は、民法313条2項で「建物の賃貸人の先取特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。」という内容です。
問題は、この「賃借人がその建物に備え付けた動産」の意味です。これは、建物に「備え付けた」ということですから、「建物の利用」に関連して常置されたものは含まれるということに争いはありません。たとえば、畳・建具・一切の家具調度・機械器具などです。問題文の前半の「家具類」というのは、これを意味しています。
ただ、判例はこの範囲をもっと広げます。本問後半の「Bが自己使用のため建物内に持ち込んだB所有の時計や宝石類」というものについても先取特権を認めます。要するに、ある程度の時間継続して置いておくものであれば、賃借人が持ち込んだ宝石などの「建物の利用」に供するものでなくてもよい、というわけです。この判例のように先取特権の目的物を広げることには批判があります。不動産賃貸の先取特権というのは、要するに賃料を支払わない借主に対して、借主の部屋にある物を競売して、賃料に充てることができる権利ですが、その競売の対象が建物の利用とは関係のないたまたま持ち込んだ賃借人の宝石類などにまで及ぶというのは、行き過ぎか、行き過ぎではないかの考え方の違いですが、判例は行き過ぎではないと考えているということです。
以上より、本問の正解は「正しい」ということになります。
【じっくり解説】
建物の賃貸人の先取特権は、「賃借人」がその建物に備え付けた動産について存在しますが、それだけでなく、賃借権の譲渡又は転貸の場合には、「譲受人又は転借人」(以下、「譲受人等」と表現します。)の動産にも及びます(民法314条)。したがって、本日の問題は「正しい」ということになります。
ただ、この条文はちょっと分かりにくい、したがって、間違いやすい感じがすると思います。もともと賃借人の賃料の不払いを、賃借権の譲受人等が責任を取らないといけないのかということです。そもそも、この賃借権の譲渡・転貸がなされた後の「譲受人等」の賃貸人に対する債務については、本条がなくても、譲受人・転借人の動産の上に賃貸人の先取特権が成立します。
それだけでなく、賃借権の譲渡・転貸がなされる以前の賃借人(譲渡人・転貸人)の賃貸人に対する債務についても、譲受人等の動産について先取特権が成立することを認めたことに本条の意味があります。先ほど指摘した点です。
これは一見不合理な気もしますが、このような規定が定められたのは、賃借権の譲渡・転貸の場合には、賃借人が備え付けた動産が、一緒に譲渡されることが多くなりますが、「先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない」(民法333条)とされているので、このような動産については、賃貸人が先取特権を行使することができなくなるのを防ぐためだとされています。宅建試験では、単純に条文通り覚えおいても結構だと思いますが、その趣旨も含めて説明しました。
【じっくり解説】
この問題に関する条文は、民法316条です。「賃貸人は、敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する。」したがって、本問の正解は「正しい」ということになります。
もともと、賃貸人が敷金を受領している場合には、賃料の延滞等については、敷金という担保を有しています。したがって、賃貸借が終了した場合には、もともと延滞賃料については、敷金を充当することができるので、延滞賃料マイナス敷金の部分についてのみしか債権を有していないので、本条の「敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する」というのは当然です。
ただ、賃貸借が継続している場合には、賃貸人は、延滞賃料について、敷金から控除することなく、延滞賃料全額について賃借人に請求することができるとされています。これは宅建でも勉強しますね。賃貸借期間中に、賃借人が、延滞賃料について、敷金からの充当を請求することはできないので、賃貸人は敷金はそのままキープした上で、延滞賃料全額を請求することができるわけです。
しかし、賃貸借が継続している場合でも、「敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する」という点に本条の意味があります。なお、本条は「敷金」についての規定であり、賃借権設定の対価であり、賃料等の担保の意味を有しない「権利金」について、本条は適用されません。