下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。

宅建 過去問解説 平成10年 問3

【問 3】 建物の賃借人Aは、賃貸人Bに対して有している建物賃貸借契約上の敷金返還請求権につき、Cに対するAの金銭債務の担保として質権を設定することとし、Bの同意を得た。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち正しいものはどれか。

1 Aは、建物賃貸借契約が終了し、AからBに対する建物の明渡しが完了した後でなければ、敷金返還請求権について質権を設定することはできない。

2 Cが質権の設定を受けた場合、確定日付のある証書によるAからBへの通知又はBの承諾がないときでも、Cは、AB間の建物賃貸借契約証書及びAのBに対する敷金預託を証する書面の交付を受けている限り、その質権の設定をAの他の債権者に対抗することができる。

3 Cが質権の設定を受けた後、質権の実行かつ敷金の返還請求ができることとなった場合、Cは、Aの承諾を得ることなく、敷金返還請求権に基づきBから直接取立てを行うことができる。

4 Cが、質権設定を受けた後その実行ができることとなった場合で、Bに対し質権を実行する旨の通知をしたとき、Bは、その通知受領後Aの明渡し完了前に発生する賃料相当損害金については敷金から充当することができなくなる。

【解答及び解説】

【問 3】 正解 3

1 誤り。敷金返還請求権は、たしかにAからBに対する建物の明渡しが完了した後でなければ発生しないが、質権の対象は、すでに発生している債権に限らず、将来の債権でもよいので、明渡し前であっても質権を設定することができる。
*民法466条の6第1項

2 誤り。指名債権を質権の目的としたときは、第三債務者(B)に質権の設定を通知し、又は第三債務者がこれを承諾しなければ、これをもって第三債務者その他の第三者に対抗することができない。なお、近年の法改正により権利質において、債権証書の交付がなくても権利質を設定できるようになっていることに注意。
*民法364条1項

3 正しい。質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができる。
*民法366条1項

4 誤り。敷金返還請求権は、敷金から明渡し完了前に発生する損害を控除した残額について発生するものである。したがって、「Aの明渡し完了前に発生する賃料相当損害金」については、Bは敷金から充当することができ、その残額についてCは質権を実行することになる。
*民法622条の2第1項1号


【解法のポイント】肢2については、ややこしいですが気を付けて下さい。まず、権利質については、以前は要物契約で、債権証書の交付がなければ権利質を設定することはできませんでしたが、今は当事者の意思表示だけで権利質を設定することができます。しかし、「当事者」の意思表示で権利質を設定できるということと、それを「第三者」に対抗することは別です。当事者間では有効でも、通知・承諾がなければ第三者に対抗できません。