下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。

宅建 過去問解説 平成8年 問46

【問 46】 宅地建物取引業者Aが自ら売主として、宅地建物取引業者でない買主Bと宅地(価格5,000万円)の売買契約を締結した場合に関する次の記述のうち、宅地建物取引業法及び民法の規定によれば、正しいものはどれか。

1 売買契約の締結に際し、AがBから1,500万円の金銭を手付として受領した場合で、その後、Bが手付を放棄して契約を解除したときには、Aは、受領した金銭を一切返還する必要はない。

2 売買契約が「宅地の引渡しまでに代金の一部として1,000万円支払う」条件の割賦販売であった場合で、Bが1,000万円を支払い、Aが宅地を引き渡すときは、Aは、登記その他引渡し以外の売主の義務も履行しなければならない。

3 「債務不履行による契約解除に伴う損害賠償の予定額を500万円とする」旨の特約をした場合でも、Aの実際に被った損害の額が予定額を超えることを証明できるときは、Aは、1,000万円を限度として、500万円を超える額の損害賠償を請求することができる。

4 「債務不履行による契約解除に伴う損害賠償の予定額と違約金の額をそれぞれ1,000万円とする」旨の特約をした場合でも、損害賠償と違約金を合計した額は、1,000万円となる。

【解答及び解説】

【問 46】 正解 4

1 誤り。宅地建物取引業者は、みずから売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して、代金の額の10分の2をこえる額の手附を受領することができない。したがって、本問の手付金のうち売買代金の2割(1,000万円)を超える500万円の部分は、手付としては無効で、売買代金の一部と扱うべきである。そして、宅地建物取引業者が自ら売主の場合は、手付は解約手付としての性質が付与されるので、買主は手付金(1,000万円)を放棄すれば契約を解除できる。したがって、この場合Aは売買代金の一部とされた500万円については、Bに返還しなければならない。なお、この売買代金の一部とされた500万円については、Bが履行に着手していることになるから、Aからは解約手付による解除はできないが、履行したBの方からは解除できる(判例)。

【じっくり解説】

この問題は、まず、売主が宅地建物取引業者で、買主が宅地建物取引業者でないということを確認します。ということは、「自ら売主の制限」の規定が適用されるので、手付の額の制限も適用されます。そして、売買代金5,000万円なので、手付の金額は売買代金の2割である1,000万円が限度ということになります。

しかし、売主Aが1,500万円の手付を受領したことは宅建業法違反になります。したがって、試験問題で、「この1,500万円の手付を受領した行為は宅建業法違反か?」というところで止まっていれば、文句なく「正しい」ということになります。

それでは、このような手付は宅建業法違反だから、買主が1,500万円の手付を「返せ!」といえるかというと、これはそう単純にはいきません。

結論から言うと、手付の額は2割までは有効だから、1,500万円の手付のうち1,000万円までは、売主は、そのまま手付として受け取ってよい。しかし、500万円分については手付の額の制限を超えているわけだから、その500万円は手付としてではなく、内金(売買代金の一部)になると考えます。したがって、買主が「1,500万円を返せ!」と言っても、1円も返ってきません。

それならば、いくら宅建業法で手付は2割までと決めても、一旦業者が2割を超える手付を受け取ってしまえば、業者の「もらい得」ということになってしまうではないか?という疑問が湧くでしょう。しかし、そうはいきません。1,500万円を、1,000万円手付+500万円内金と解釈すると先ほど書きましたが、これには意味があります。

まず、500万円を内金(売買代金の一部)と考えますと、買主は売買代金の一部を支払っているので、「履行に着手」したということになります。ということは、売主から見れば、相手方(買主)は履行に着手しているので、手付解除できなくなるということになります。つまり、売主は2割以上の手付金を受領することによって、自ら手付解除ができなくなるという不自由な立場に立つことになります。

上記に関連して、手付解除というのは「相手方」が履行に着手すると解除できなくなりますが、自らは履行に着手しても、相手方が履行に着手していなければ手付解除できます。これは宅建でも非常によく出題される判例です。つまり、本問で500万円分を内金と考えて買主が履行に着手したと考えても、買主の方からは、売主が履行に着手していない限り、手付解除をすることができます。しかも、買主が「手付」解除をしても、1,000万円は売主に没収されますが、500万円は内金ですから買主に返還されることになります。

したがって、本問の解答ですが、500万円は返還されるので、「A(売主)は、受領した金銭を一切返還する必要はない」というのは、「誤り」ということになります。以上で、本問をよく理解いただけましたでしょうか。

手付というのは、結局売買代金に充当されます。仮に買主が余分に払ったとしても、売買契約が順調に最後まで進めば、買主にとっては、損も得もないわけです。しかし、どちらかの当事者が手付解除をしようというときには、上記のように宅建業法違反の手付の受領は売主にとって、必ずしも得になるとは限らないんです。

*宅地建物取引業法39条

2 誤り。宅地建物取引業者は、みずから売主として宅地又は建物の割賦販売を行なった場合には、当該割賦販売に係る宅地又は建物を買主に引き渡すまでに、登記その他引渡し以外の売主の義務を履行しなければならない。ただし、当該宅地又は建物を引き渡すまでに代金の額の10分の3をこえる額の金銭の支払を受けていない場合にあっては、この所有権留保の禁止の規定は適用されない。
*宅地建物取引業法43条1項

3 誤り。宅地建物取引業者がみずから売主となる宅地又は建物の売買契約において、当事者の債務の不履行を理由とする契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定めるときは、これらを合算した額が代金の額の10分の2をこえることとなる定めをしてはならないが、10分の2までならば有効である。したがって、本肢損害賠償額の予定を500万円とする特約は有効であり、このような損害賠償額の予定がなされた場合は、当事者は実際の損害額が、その予定額を超えることを証明しても、この予定額以上の金額を請求することはできない(民法420条)。
*宅地建物取引業法38条

4 正しい。肢3で述べたように、損害賠償額の予定と違約金は、合算して代金の2割が限界であり、これを超える部分は無効となる。
*宅地建物取引業法38条


【解法のポイント】肢1については、手付に関するいろいろな論点がからむいい問題です。解説をじっくり読んで自分で考えれば、大変役に立ちます。