下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。

宅建 過去問解説 平成8年 問9

【問 9】 Aが、B所有の建物を代金8,000万円で買い受け、即日3,000万円を支払った場合で、残金は3ヵ月後所有権移転登記及び引渡しと引換えに支払う旨の約定があるときに関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。

1 Aは、履行期前でも、Bに残金を提供して建物の所有権移転登記及び引渡しを請求し、Bがこれに応じない場合、売買契約を解除することができる。

2 Bが、履行期に建物の所有権移転登記はしたが、引渡しをしない場合、特別の合意がない限り、Aは、少なくとも残金の半額2,500万円を支払わなければならない。

3 Bが、Aの代金支払いの受領を拒否してはいないが、履行期になっても建物の所有権移転登記及び引渡しをしない場合、Aは、Bに催告するだけで売買契約を解除することができる。

4 Aが、履行期に残金を提供し、相当の期間を定めて建物の引渡しを請求したにもかかわらず、Bが建物の引渡しをしないので、AがCの建物を賃借せざるを得なかった場合、Aは、売買契約の解除のほかに、損害賠償をBに請求することができる。

【解答及び解説】

【問 9】 正解 4

1 誤り。Aが履行期前に残金を提供する行為は、期限の利益の放棄であり自由であるが、Bには期限の利益があり、登記及び引渡しに応じなかったとしても、履行遅滞にはならず、したがってAも解除できない。
*民法541条

2 誤り。当事者の約定により、建物の所有権移転登記及び引渡しと残金は同時履行となっているわけであるから、Bが引渡しをしない場合は、Aは残金の全額を支払う必要はなく、残金の半額を支払う必要はない。
*民法533条

3 誤り。Bの所有権移転登記及び引渡しとAの残金の支払いは同時履行になっているわけであるから、Bは、Aから残金の履行の提供がなければ、同時履行の抗弁を主張して所有権移転登記及び引渡しを拒むことができる。したがって、Aは履行の提供をして、相手方の同時履行の抗弁を消滅させ、その後に催告してからでないと売買契約を解除することはできない。
*民法541条

4 正しい。肢3で述べたように、Aが履行の提供をし、さらに催告しても、Bが引渡しをしなければ、Aは売買契約を解除できる。そして、解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げないので、Aは損害があれば、損害賠償をBに請求することができる。
*民法545条3項


【解法のポイント】肢1と肢2は、当事者の約定どおりの内容で考えればいいだけです。そこに、同時履行の抗弁がからんでいるだけ。肢3は、少し難しいですが、相手方が履行遅滞に陥らなければ、解除ができないということです。そして、相手方を履行遅滞に陥らせるためには、自分が履行の提供をして、相手方の同時履行の抗弁を消滅させます。そうすると、相手方が履行遅滞になるので、それから催告→解除の手順を踏むわけです。

★ 履行遅滞による解除のまとめ
履行の提供…相手方の同時履行の抗弁が消滅=履行遅滞になる
  ↓
相当の期間を定めて催告
  ↓相手が履行しない
契約を解除