下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。

宅建 過去問解説 平成6年 問10

【問 10】 Aは、A所有の建物を、Bから敷金を受領して、Bに賃貸したが、Bは賃料の支払いを遅滞している。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち正しいものはどれか。なお、Bの未払賃料の額は、敷金の額の範囲内である。

1 Bは、Aに対し、未払賃料について敷金からの充当を主張することができる。

2 Bの債権者Cが敷金返還請求権を差し押さえたときは、Aは、その範囲で、Bの未払賃料の弁済を敷金から受けることができなくなる。

3 AがDに建物を譲渡し、Dが賃貸人となった場合、Aに差し入れていた敷金は、Bの未払賃料を控除した残額について、権利義務関係がDに承継される。

4 Bが未払賃料を支払って、Aの承諾を得て賃借権をEに譲渡した場合、BがEに敷金返還請求権を譲渡する等しなくても、敷金に関する権利義務関係は、Eに承継される。

【解答及び解説】

【問 10】 正解 3

1 誤り。賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
*民法622条の2第2項

2 誤り。敷金は、賃借人の賃料の不払等に備えるために担保の目的で交付されるものであり、賃貸人は未払賃料を敷金から差し引くことができる。したがって、敷金返還請求権は、賃借人の未払賃料等の債務を控除した部分について発生する。Cは未払賃料等の債務を差し引いた額の敷金返還請求権を差し押さえたことになる。
*民法622条の2第1項

3 正しい。敷金が交付された場合に、賃貸借の目的物が譲渡された場合は、旧賃貸人のもとですでに発生している債務を控除した残額について、敷金関係が新賃貸人に承継される。
*民法第605条の2第4項

4 誤り。敷金が交付された場合に、賃借権が譲渡された場合、新賃借人に敷金返還請求権を譲渡する契約等の特段の事情がない限り、新賃借人は敷金関係を引き継がない。したがって、Eは敷金に関する権利義務関係を承継することはない(判例)。


【解法のポイント】肢3と肢4は比較してよく覚えておいて下さい。繰り返し出題される可能性のある問題です。要するに賃貸人が交代したり、賃借人が交代したりした場合に、敷金関係が引き継がれるかという問題です。肢3の賃貸人の地位が譲渡された場合は、敷金関係は引き継がれます。なぜならば、敷金は、解説にあるとおり「担保」の目的で交付されるからです。「担保」というとわれわれは抵当権を思い出しますが、抵当権の性質に随伴性というのがありました。随伴性というのは、被担保債権が移転すると抵当権も移転するということです。担保というのは、もとになる被担保債権に引きずられて移転するという性質があるということですよね。したがって、敷金という「担保」でも、もとになる賃貸借関係が新賃貸人に移転すると、担保である敷金関係も、それに伴って新賃貸人に移転します。それに対して、賃借権の譲渡があって新賃借人が現れた場合には、敷金関係は新賃借人に移転しません。この場合に敷金関係の移転を認めると、旧賃借人は他人のために担保を差し出していることになるからです。

★ まとめ~敷金に関する権利義務の移転
賃貸人の地位が交代 ⇒ 敷金関係も移転
賃借人の地位が交代 ⇒ 敷金関係は移転しない