下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。

宅建 過去問解説 平成5年 問5

【問 5】 AがBからBのCに対する貸金債権の譲渡を受けた場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。

1 その債権の譲渡についてCの承諾がないときは、BからCに債権譲渡の通知をしないと、Aは、Cから債権の取立てをすることができない。

2 CがBから債権譲渡の通知を受け、かつ、Aから支払いの請求を受けた場合においても、Cがその債権譲渡の通知を受けた時点においてBに対して既に弁済期の到来した債権を有しているときは、Cは、Aに対し相殺をもって対抗することができる。

3 CがBの債権者Dの申立てによる差押命令の送達を受けたときは、その送達前にBから確定日付のある債権譲渡通知が届いていても、Cは、Dの取立てに応じなければならない。

4 CがB名義の債権譲渡通知を受領し、かつ、Aから支払いの請求を受けた場合において、Bが譲渡の事実を否認するときは、Cは、供託により、免責を受けることができる。

【解答及び解説】

【問 5】 正解 3

1 正しい。指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。したがって、Cの承諾がない場合は、BからCへの債権譲渡の通知がないと、AはCに対して債権の取立てをすることができない。
*民法467条1項

2 正しい。債務者は、対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる。したがって、CがBに対して弁済期の到来した債権を有していたときは、Cは、相殺をもってAに対抗することができる。
*民法469条1項

3 誤り。債権譲渡を、債務者以外の第三者に対抗するには、確定日付のある証書によって通知又は承諾しなければ第三者に対抗できない。この「第三者」の中には、「債権を差し押さえた譲渡人の債権者」も含まれる。したがって、Dの申立てによる差押命令の送達より、BからAへの債権譲渡についての確定日付ある通知が先にCに到達すると、Aが優先し、CはDの取立てに応じる必要はない。

【じっくり解説】

まず、解答から言うと「×」ということになります。これに関係する条文は、民法467条2項です。

「指名債権の譲渡の対抗要件である通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。」

この条文が想定しているのは、最も典型的な場合は、債権の二重譲渡で、本条の「債務者以外の第三者」というのは、具体的には債権の二重譲受人ということになります。しかし、この「債務者以外の第三者」の具体例として、債権の二重譲受人以外は、他にご存知ですか?というのが本問の趣旨です。

問題文によると、Bが、一方でAに債権を譲渡し、その旨の確定日付ある通知をCに送ったが、他方でBの債権者DがBのCに対する債権を差し押さえています。B→Aへの債権譲渡は分かると思いますが、この「Bの債権者DがBのCに対する債権を差し押さえる」というのは、どういう意味があるのか、ですが、これは「債権の差押」ということになります。DがAの債権を差し押さえることにより、AのBに対する債権は、Dに移転する形になります。この差押えがなされると、裁判所からBへ差押命令というのが送達されます。そして、Dは直接Bから取り立てることができるようになります。これが債権の差押えの基本的な仕組みです。

そして、Dが差し押さえることによって、債権がAからDへ移転するということは、A→C、A→Dへ債権が二重譲渡されたのと同じ形になります。この場合は、C・Dの優劣はどうして決めるかというと、AがCへ債権を譲渡した旨の確定日付ある通知と、差押命令の送達のどちらが先に債務者Bに到達するかで決めるわけです。債権の二重譲渡でも勉強する「債務者への到達で決める」(到達時説)ということです。このような、「(債権譲渡の)譲渡人の債権の差押債権者」というのも、「債務者以外の第三者」に該当します。

この事例は、すごく特殊に感じるかもしれませんが、宅建試験でも出題されていますし、具体例としては比較的よく取り上げられものですので、あまり軽視しないで下さい。

*民法467条2項

4 正しい。弁済者が債権者を確知することができないときは、弁済者は、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。本肢では、債権の譲渡人が、債権譲渡の事実を否認しているわけであるから、債務者としては譲渡人・譲受人のどちらに弁済してよいか分からず、「弁済者が債権者を確知することができない」に該当する。したがって、Cは供託により免責を受けることができる。
*民法494条2項


【解法のポイント】肢3については、ちょっと理解しにくいと思います。肢3ではDがBに対して債権を有しているわけですが、BがDに対して債務を弁済しない場合、Dはその債権を回収しなければならないわけです。そこで、DはBの財産である「BのCに対する債権」というのを差し押さえることができます。そして、Dがこの債権を差し押さえて転付命令というのを得ると、債権がBからDに移転し、DはCから取立てをして債権の回収を図ることになります。この説明で分かりますように、Dが差押をして転付命令を得ますと、債権がB→A、B→Dと二重譲渡されたような形になります。そして、B→Dへの移転は、転差押命令の送達が対抗要件になります。