下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。

宅建 過去問解説 平成4年 問9

【問 9】 不法行為に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

1 悪意による不法行為の被害者は、損害賠償債権を自働債権として、加害者に対する金銭返還債務と相殺することができない。

2 不法行為に基づく損害賠償債務は、被害者が催告をするまでもなく、その損害の発生のときから遅滞に陥る。

3 売主及び買主がそれぞれ別の宅地建物取引業者に媒介を依頼し、両業者が共同して媒介を行った場合において、両業者の共同不法行為により買主が損害を受けたときは、買主は、買主が依頼した業者に損害賠償を請求することはできるが、売主が依頼した業者に損害賠償を請求することはできない。

4 従業員Aが宅地建物取引業者Bの業務を遂行中に第三者Cに不法行為による損害を与えた場合、Bは、その損害を賠償しなければならないが、Aに対してその求償をすることはできない。

【解答及び解説】

【問 9】 正解 2

1 誤り。加害者が、悪意による不法行為によって生じた債務を受働債権として相殺することはできないが、被害者が悪意による不法行為によって生じた債権を自働債権として相殺することはできる。
*民法509条

2 正しい。不法行為に基づく損害賠償債務は、期限の定めのない債務とされます。期限の定めのない債務は、通常は、債権者が催告したときから、債務者は履行遅滞となりますが、不法行為に基づく損害賠償債務は、特別に、債権者が催告しなくても、「損害発生の時から直ちに遅滞に陥る」とされる(判例)。
*民法412条3項

3 誤り。本肢では、宅地建物取引業者は双方で共同不法行為を行ったことになる。そして、数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が「連帯」してその損害を賠償する責任を負う。したがって、宅地建物取引業者は双方とも、それぞれ売主及び買主に対して損害賠償責任を負う。
*民法719条1項

4 誤り。ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う(使用者責任、民法715条1項)。そして、Cに対して損害賠償をしたBは、被用者Aに対して信義則上相当な範囲で求償することができる。
*民法715条3項


【解法のポイント】不法行為に関する問題は、「被害者の救済」という観点から考えれば理解しやすくなります。たとえば、肢1の問題は、何度でも出題される重要な問題ですが、これは、結局被害者を保護するための規定ですから、「加害者からは相殺できない」が、「被害者からは相殺できる」と覚えておけばいいと思います。