宅建 過去問解説 平成3年 問4
【じっくり解説】
この問題は、過去問の中でも難しいものだと思います。したがって、あまり難しく考えたくない人は、「パス」してもらって結構かもしれませんが、少なくとも登記に関する基本的な考え方がからんでいるので、読んで「損」はないと思います。とにかく、最初にこの問題の解答を書きますと「○」ということになります。
まず、基本から行きましょう。Aの所有地を、FがAに無断で、F名義の登記にしていますが、当たり前ですが、これはダメです。したがって、Fは自己名義の登記を備えていますが、「無権利者」ということになります。Fからの譲受人Gも、基本的には同じはずです。もともとFは権利がないので、Gは、たとえFが無権利者であることについて善意無過失であったとしても権利を取得できないはずです。
このように、無権利者から登記という外形だけを信用して、不動産を購入した者は権利を取得できないというのを、登記に「公信力」がない、と表現します。「公信力」とは、「公」に「信」用する「力」という意味です。つまり、先ほどの例で、GはFから不動産を購入しているわけですが、購入に際して、Fはちゃんと登記しているということを信用して購入したとします。登記に公信力があれば、この登記を信頼したDを保護するという考え方もあり得ます。しかし、日本の民法は、そういう考え方をしていません。形(登記)だけあっても、中身(権利)がなければダメだ、という考えです。
つまり、比喩的に言うと、権利という土台があって、その上に登記という形があれば、完全に対抗力を有するが、権利という土台がないのに、その上の登記という形だけ備えてもダメですよ、ということです。
権利+登記 → 完全な対抗力
無権利+登記 → 権利なし
以上が、本問を解く前提のような話ですが、次に本問の内容に移ります。本問では、不動産の登記名義がA→F→Gと移っているわけですが、F名義の登記を「Aがこれを知りながら放置していた」とあります。本問のポイントはココです。本来、Aは、知らない間に不動産の登記名義が、自分からFに移っているわけですから、慌ててF名義の登記を抹消して、A名義に回復しようとするはずです。それを「Aがこれを知りながら放置していた」ということは、不動産の登記名義がFにあることについて、Aが黙認しているとまでは言わないですが、少なくともF名義であることについて責任があると考えます。
これに対して、GはF名義の登記を信用し、それについて善意無過失です。このような場合には、虚偽表示の規定を「類推」適用します。確かに、この場合Fは勝手に登記名義を移転したのであり、AとFが「通謀」して虚偽表示したとはいえませんが、AがFから登記名義を回復せず放置しているような場合には、第三者(G)の信頼という点からは、虚偽表示の場合と同じような責任がAにあると考えるわけです。したがって、善意無過失のGは保護されます。
気を付けて欲しいのは、この虚偽表示の規定(94条2項)の類推適用は、何でも認められるわけではなく、Aが虚偽の登記を放置しているという特別な事情があるときのみ認められるという点です。