下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。

宅建 過去問解説 平成3年 問4

【問 4】 Aが所有する土地について次に掲げる事実が生じた場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち誤っているものはどれか。

1 AがBから土地を譲り受けたが、その末登記の間に、Cがその事情を知りつつ、Bからその土地を譲り受けて、C名義の所有権移転登記をした場合、Aは、その所有権をCに対抗することができない。

2 Aの所有地がAからD、DからEへと売り渡され、E名義の所有権移転登記がなされた後でも、AがDの債務不履行に基づきAD間の売買契約を解除した場合、Aは、その所有権をEに対抗することができる。

3 Aの所有地にFがAに無断でF名義の所有権移転登記をし、Aがこれを知りながら放置していたところ、FがF所有地として善意無過失のGに売り渡し、GがG名義の所有権移転登記をした場合、Aは、その所有権をGに対抗することができない。

4 AがHから土地を譲り受けたが、その末登記の間に、Iが権原のないJからその土地を賃借して、建物を建築し、建物保存登記を行った場合、Aは、Iにその土地の明渡し及び建物の収去を請求することができる。

【解答及び解説】

【問 4】 正解 2

1 正しい。不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。すなわち、二重譲渡においては先に登記を備えた方が優先するのが原則である。この場合の第三者は単なる悪意者でも保護される。したがって、Aはその所有権をCに対抗することができない。
*民法177条

2 誤り。当事者の一方が解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。この第三者が保護されるためには、第三者は善意・悪意を問わないが、登記を備えていればよい。したがって、本肢のEは登記を備えているので保護され、Aはその所有権をEに対抗することができない。
*民法545条1項但書

3 正しい。FはAに無断で自己名義の登記をしているが、登記には公信力がないので、Gは保護されないのが原則である。しかし、Gが善意無過失で、AがF名義の登記を放置するというような帰責性が認められる場合には、例外的に虚偽表示の規定を類推適用し、Aは、その所有権をGに対抗することができない(判例)。

【じっくり解説】

この問題は、過去問の中でも難しいものだと思います。したがって、あまり難しく考えたくない人は、「パス」してもらって結構かもしれませんが、少なくとも登記に関する基本的な考え方がからんでいるので、読んで「損」はないと思います。とにかく、最初にこの問題の解答を書きますと「○」ということになります。

まず、基本から行きましょう。Aの所有地を、FがAに無断で、F名義の登記にしていますが、当たり前ですが、これはダメです。したがって、Fは自己名義の登記を備えていますが、「無権利者」ということになります。Fからの譲受人Gも、基本的には同じはずです。もともとFは権利がないので、Gは、たとえFが無権利者であることについて善意無過失であったとしても権利を取得できないはずです。

このように、無権利者から登記という外形だけを信用して、不動産を購入した者は権利を取得できないというのを、登記に「公信力」がない、と表現します。「公信力」とは、「公」に「信」用する「力」という意味です。つまり、先ほどの例で、GはFから不動産を購入しているわけですが、購入に際して、Fはちゃんと登記しているということを信用して購入したとします。登記に公信力があれば、この登記を信頼したDを保護するという考え方もあり得ます。しかし、日本の民法は、そういう考え方をしていません。形(登記)だけあっても、中身(権利)がなければダメだ、という考えです。

つまり、比喩的に言うと、権利という土台があって、その上に登記という形があれば、完全に対抗力を有するが、権利という土台がないのに、その上の登記という形だけ備えてもダメですよ、ということです。

権利+登記  → 完全な対抗力
無権利+登記 → 権利なし

以上が、本問を解く前提のような話ですが、次に本問の内容に移ります。本問では、不動産の登記名義がA→F→Gと移っているわけですが、F名義の登記を「Aがこれを知りながら放置していた」とあります。本問のポイントはココです。本来、Aは、知らない間に不動産の登記名義が、自分からFに移っているわけですから、慌ててF名義の登記を抹消して、A名義に回復しようとするはずです。それを「Aがこれを知りながら放置していた」ということは、不動産の登記名義がFにあることについて、Aが黙認しているとまでは言わないですが、少なくともF名義であることについて責任があると考えます。

これに対して、GはF名義の登記を信用し、それについて善意無過失です。このような場合には、虚偽表示の規定を「類推」適用します。確かに、この場合Fは勝手に登記名義を移転したのであり、AとFが「通謀」して虚偽表示したとはいえませんが、AがFから登記名義を回復せず放置しているような場合には、第三者(G)の信頼という点からは、虚偽表示の場合と同じような責任がAにあると考えるわけです。したがって、善意無過失のGは保護されます。

気を付けて欲しいのは、この虚偽表示の規定(94条2項)の類推適用は、何でも認められるわけではなく、Aが虚偽の登記を放置しているという特別な事情があるときのみ認められるという点です。

*民法94条2項類推適用

4 正しい。IはJから当該土地を賃借して対抗要件を備えているが、Jはもともと無権限者であり、無権限者からの賃借人はいくら対抗要件を備えても保護されない。したがって、AはIに建物収去、土地明渡しを請求することができる。
*民法177条


【解法のポイント】肢1は、単純な悪意者と背信的悪意者を区別して下さい。肢2は、解除における第三者は、善意・悪意を問わず登記すれば保護される、という点を必ず覚えること。肢3はちょっと難しい判例です。