宅建 過去問解説 平成2年 問37
【じっくり解説】
この問題は、当然「過去問」ですし、登録の基準という基本的な論点に関する問題です。しかし、その中では、かなりややこしい問題です。この問題が正確に理解できていないからと言って、それだけで不合格になるというものでもないでしょう。ただ内容的には基本的な論点に関するものですから、できるだけ「説明」についていけるようにして下さい。
この問題は、宅地建物取引士のいわゆる「登録の基準」に関する問題ですが、基本となる宅地建物取引業者の「免許の基準」として解説します。そして、この「免許の基準」の内容が、「登録の基準」にも当てはまるという形の解説の方が、「免許の基準」の方が出題頻度が格段に多いので、試験対策として、参考になると思います。
さて、免許の基準の条文は宅建業法5条ですが、本問に関連する部分は「第5条1項2号の2」と「同2号の3」です。
第5条1項2号の2(法人自身の場合)
一定の事由に該当するとして免許の取消処分の聴聞の期日及び場所が公示された日から当該処分をする日又は当該処分をしないことを決定する日までの間に「法人が合併及び破産手続開始の決定以外の理由により解散した場合」又は「宅地建物取引業を廃止した場合」の届出があった者(解散又は宅地建物取引業の廃止について相当の理由がある者を除く。)で当該届出の日から5年を経過しないもの
第5条1項2号の3(法人の役員の場合)
前号(上記2号の2のこと)に規定する期間内に「合併により消滅した法人」又は「法人が合併及び破産手続開始の決定以外の理由により解散した場合」若しくは「宅地建物取引業を廃止した場合」の規定による届出があつた法人(合併、解散又は宅地建物取引業の廃止について相当の理由がある法人を除く。)の前号の公示の日前60日以内に役員であつた者で当該消滅又は届出の日から5年を経過しないもの
たまに宅建試験で、昔の過去問は、現在とは傾向が変わっているし、あまり勉強する必要はないのではないか?と思う人もいるのではないかと思います。それに対して、それは「そうとも言えるし、そうではないとも言えます」と私なら答えます。確かにあまりに古い過去問は不要だと思いますが、少なくとも平成に入ってからの過去問は全部勉強する必要はありませんが、無視することはできないと思います。本日の問題は、「平成2年」です。この年は、合格点が26点でちょっと特殊な年だったかもしれませんが、この問題などは現在でも出題されている範囲で、かつ、現在の問題よりよっぽどレベルの高い問題です。
だから、最初に書きましたように、絶対にできないといけない問題とまではいえませんが、現在でも出題されている条文なので、余裕があれば勉強しておいた方がいい問題といえます。
ちなみに、当学院の宅建通信講座では、過去問は、直近10年分は全問、プラス、それ以前の「平成」の過去問は現在でも勉強しておいた方がいい問題のピックアップという形になっています。このような形の本は市販されていませんが、私が考えるに、その形の過去問の勉強が一番いいと思っています。
ということで本題に戻しますが、上記の二つの条文は同じようなことが書いてありますが、2号の2は法人自身(あるいは個人)に関して、2号の3は法人の役員に関する規定です。つまり、簡単に要約すると、免許取消処分を免れるために、「廃業等」をしても、無駄ですよ。どうせ、届出から5年間は法人自身もその役員も5年間は免許を受けることはできませんよ、という規定です。ここの廃業「等」というのが、具体的に微妙に違っているので、ここの条文は一見簡単そうで、実は複雑で、しかも、本問はそこを突いてきているわけです。
具体的には、免許取消処分前の届出から5年間免許が受けられない事由は、「破産」「合併」「それ以外の解散」「廃業」が問題になります。
結論から言うと、
- 破産…………………(法人)○、(役員)○
- 合併…………………(法人)○、(役員)×
- それ以外の解散……(法人)×、(役員)×
- 廃業…………………(法人)×、(役員)×
こういう一覧表は、○×の付け方が難しいですが、「×」というのは5年間免許を受けられないから「×」としました。微妙な違いというのは、上記の部分を見ていただければ分かるように、「合併」の部分ですね。免許取消処分前に、法人が合併で消滅した旨の届出をすると、その法人は、免許の欠格事由に該当しません。しかし、合併で消滅した法人の役員であった者は、免許の欠格事由に該当し、5年間免許を取得できないことになります。ここで、先ほどの条文をもう一度見直しますと、そうなりますね。
なぜ、このような扱いの違いがあるのでしょうか。そもそも、法人自身が、合併及び破産手続開始の決定「以外」の理由により解散した場合だけ、免許の基準(欠格事由)に該当し、「合併」と「破産」が除かれている(つまり、合併と破産の場合、欠格事由に該当しない)理由というのは、合併の場合は新設合併にせよ、吸収合併にせよ、合併した会社は存続しなくなり、個人でいうと死亡というのと同様、同じ会社が再度免許を取得しようとする事態は発生しなくなるからです。また、破産の場合は、一般的にやむを得ずに破産するものであり、免許取消処分を免れるために破産するという事態は定型的に考えられないからです。
ということは、法人が合併した場合、その法人自身は消滅しているので、再度免許を申請することはないでしょうが、法人が消滅しても、法人の「役員」はまだ生きていますので、役員が宅地建物取引業の免許を申請することはあり得ます。したがって、免許取消処分を免れるために法人が合併した場合は、法人自身はなくなっているので、問題はないけど、合併のときの法人の役員は、免許の欠格事由に該当するとしたわけです。
そして、この「業者」の免許の基準の規定は、そのまま「宅地建物取引士」の登録の基準でも使われています。たとえば、法人Aに役員甲がいたとします。その法人が免許取消処分の聴聞の期日及び場所が公示された日から当該処分をする日又は当該処分をしないことを決定する日までの間に正当な理由なく合併したとします。法人自身は、合併でなくなっているので、再度宅地建物取引業の免許を申請することはないでしょうし、宅地建物取引士は「個人」の資格なので、法人自身が宅地建物取引士の登録を申請することもありません。しかし、法人Aが合併でなくなっていても、役員甲は、生きいますので、宅地建物取引業の免許を申請したり、宅地建物取引士の登録を申請することもあり得ますが、その場合でも5年間は免許及び登録の欠格事由に該当し、宅地建物取引業の免許も、宅地建物取引士の登録も受けることができません。以上で理解できましたでしょうか。