下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。

マンション管理士 過去問解説 令和2年 問33

【問 33】 理事会の運営に係る次の記述のうち、標準管理規約によれば、適切なものはいくつあるか。

ア 理事本人が理事会に出席できない場合に備え、規約に代理出席を認める旨を定めるとともに、総会において、それぞれの理事ごとに、理事の職務を代理するにふさわしい資質・能力を有するか否かを審議の上、その職務を代理する者を定めておくことができる。

イ 総会での決議に4分の3以上の賛成を必要とする総会提出議案についても、理事会で議案の提出を決議する場合は、出席理事の過半数の賛成があれば成立する。

ウ 管理組合と理事との間の利益相反取引に係る承認決議に際しては、当該理事を除く理事の過半数により決議する。

エ 専門委員会のメンバーは、理事会から指示された特定の課題の検討結果を理事会に対して具申することはできるが、理事会決議に加わることはできない。

1 一つ
2 二つ
3 三つ
4 四つ

【解答及び解説】

【問 33】 正解 3

ア 適切。理事に事故があり、理事会に出席できない場合は、規約に代理出席を認める旨を定めるとともに、あらかじめ、総会において、それぞれの理事ごとに、理事の職務を代理するにふさわしい資質・能力を有するか否かを審議の上、その職務を代理する者を定めておくことが望ましい。
*標準管理規約53条関係コメント③

イ 適切。理事会の議事は出席理事の過半数で決する。総会での決議に4分の3以上の賛成を必要とする総会提出議案についても、特別の規定がないので、出席理事の過半数で決する。
*標準管理規約53条1項

ウ 不適切。理事会の議事は出席理事の過半数で決するが、特別の利害関係を有する理事は、議決に加わることができない。管理組合と利益相反関係にある理事は、理事会に出席している以上、出席理事にカウントされるので、当該理事を「含む」理事の過半数により決議することになる。
*標準管理規約53条3項

エ 適切。専門委員会は、調査又は検討した結果を理事会に具申するが、理事会決議に加わるわけではない。
*標準管理規約55条2項


以上より、適切なものは、ア、イ、エの3つであり、肢3が正解となる。


【解法のポイント】本問については、各受験機関で正解が肢3と肢4で分かれた問題です。しかし、合格発表時の正解番号の公表で、肢3が正解と正式に発表されています。

ア、イ、エはほぼ「適切」と考えられますので、ウについて正誤の判断が分かれているものと思われます。

ウについては、理事会の議事は「出席理事」の過半数で決し、利益相反関係にある理事(以下、「当該理事」とします。)は議決に加われないことは標準管理規約に書かれているので、問題は、当該理事は、「出席」理事としてカウントされるのかどうかが正誤の判断の分かれ目になるということになると思われます。問題文は当該理事を「除いて」過半数で決議すると書かれているので、当該理事は出席理事にカウントされない、というのが問題文の趣旨です。

これが「不適切」だということは(正解番号が肢3である以上、そう解釈せざるを得ません)、当該理事は出席理事にはカウントされるが、議決に加わることができないということになります。

この結論については、私が調べた範囲では明言した文献はありませんでした。したがって、以下は、あくまでも私個人の意見ということになります。

通常決議というのは、ある議案について賛成が過半数あれば、その議案が可決されたことになります。過半数の賛成が得られなければ、当該議案は否決ということになります。

そこで、たとえば、ある理事会で、理事が8名いたとします。そして、4名の理事が出席した理事会は、理事の半数以上が出席しているので、定足数を満たし、当該理事会は成立します(標準管理規約53条1項)。

この理事会において、第1号議案と、第2号議案があり、第2号議案がある理事との利益相反関係がある議案であるとします。

第1号議案については、普通に決議して過半数で決することになります。定足数も満たしているので問題ありません。

問題は第2号議案です。2名が賛成、1名が反対、1名が利益相反関係のある当該理事だったとします。この決議は、そもそも成立するか、成立するとして可決されるのかどうか、ということです。

当該理事を出席理事としてカウントするならば、決議自体は成立します。そして、出席理事4名のうち、賛成は2名しかいないわけですから、「過」半数に満たず、この議案は否決されたことになります。これが、本問ウが「不適切」とされた場合の当然の帰結ということになります。逆に、当該理事を出席理事としてカウントしないのであれば、第1号議案は定足数を満たすが、第2号議案では、出席理事3名、賛成2名、反対1名で、過半数の賛成はありますが、そもそも定足数を満たさないということになり、議案ごとに定足数を満たしたり、満たさなかったりしますが、その結論自体は、「あり得る」と思います。

これを考えるに当たって参考になるのは、決議の場合の「棄権者」の扱いです。棄権者は、一般的に決議に「出席」しているので、定足数には含めるが、賛否を明確にしているわけではないので、賛成にはカウントされません。つまり、「そこにいるけど、賛成していない人」という扱いです。そして、議案の成否は、「賛成者」が過半数を占めるかどうかで決まりますので、結果的には「否決」と同じことになります。

これが利益相反関係にある理事と同じではないのか、ということです。当該理事は、「そこにいるけど、賛否を明確にできない人=賛否を明確にしていない人」という扱いです。

ただ、この利益相反関係にある人が議決に加われないという事態は、他の法律にありそうです。すぐに思い付くのは、会社の取締役会です。これは、会社法という法律に規定があります。会社法の条文を見てみましょう。

会社法第369条(取締役会の決議) 取締役会の「決議」は、「議決に加わることができる」取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。
2 前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、「議決に加わることができない」。
3 以下省略

簡単にまとめると、特別の利害関係を有する取締役は、定足数にカウントされず、議決にも加わることができないとなっています。

しかし、会社法の条文をよく見ると、定足数の元となる人数は、「議決に加わることができる」取締役となっており、標準管理規約の規定(単に「理事」の半数となっており、「議決に加わることができる理事」とは表現されていません)とは、表現が異なります(半数か、過半数かの違いもありますが、ここでは問題になりません。)。

しかも、取締役会の「決議」についての定足数が定められており、決議ごとに定足数を考えるように読めます。ところが、標準管理規約は、理事会の「会議」は~ となっており、「決議」となっていません。会議全体で定足数を満たすかどうかだけを問題にしているように読めます。

会社法と同様の規定は、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律95条にもあります。管理組合は営利を目的とする団体ではないので、こちらの方が近い気がしますが、どちらも同じ規定です。

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第95条(理事会の決議) 理事会の決議は、議決に加わることができる理事の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。
2 前項の決議について特別の利害関係を有する理事は、議決に加わることができない。
3 以下省略

逆に言うと、標準管理規約は、これらの有名な法律の規定とは、あえて異なる規定の仕方をしています。つまり、理事会の「会議」(「決議」ではない)は、理事(「議決に加わることができる」という言葉をわざと外している)の半数以上が出席~ 、と規定しているということです。

以上の結論が正しいと仮定すると、次に問題になるのは、標準管理規約は、なぜ会社法と扱いを異にしたのか、という点です。標準管理規約53条の第3項(特別の利害関係を有する理事は、議決に加わることができない。)は、改正により追加された条文です。つまり、従来は第1項(理事会の会議は、理事の半数以上が出席しなければ開くことができず、その議事は出席理事の過半数で決する。)という条文しかなかったところに、第3項が追加されたわけです。

したがって、改正前は、第1項で定足数の部分で単に「理事」の半数、とのみ規定し、「議決に加わることができる理事」の半数とする必要はありませんでした。そこに、単に第3項が追加されただけであると考えることもできるでしょう。

しかし、会社法等の上記の規定は、それなりに有名な規定なので、標準管理規約の改正時には、参照したものと思われます。少なくとも私はそのように考えます。

にもかかわらず、なぜ第1項の文言を変更し、「議決に加わることができる理事」という表現に変えなかったのかということです。

これについては、正確なことは私も調べ切れていないので、あくまで単なる私の「推測」に過ぎませんが、マンションにおける理事会の実情というのも考慮されたのではないでしょうか。マンションの理事は、輪番などでそれほど意欲もない人がよく選出されることがあります。そして、マンションにもよるでしょうが、理事会を開くときに、定足数を満たすように理事に出席してもらうのに苦労しているマンションもあるように思います。場合によっては、理事会の当日、定足数が集まらず、流会になることも無きにしも非ずだと思います。

したがって、利益相反理事も出席理事に加え、定足数を満たしやすくする。しかし、当該理事は議決に加われないわけだから、結果的に「否決」に投票したことになる。言い換えれば、利益相反理事が否決に投票したとしても、可決できるような状況であれば、理事会としても公平な決議ができ、不当な利益相反行為を抑制できると考えることもできます。

以上、公表された正解番号の肢3(つまり、ウは「不適切」)は、それなりの合理性があるのではないかと思います。ただし、最初に断りましたように、あくまで個人の見解であり、これがピントのずれた内容になっていないことを祈っています。(2021.1.19)