下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。

マンション管理士 過去問解説 平成24年 問3

【問 3】 以下の事実関係に係る次の記述のうち、区分所有法及び民法の規定並びに判例によれば、誤っているものはどれか。ただし、甲マンションの管理組合(区分所有法第3条に規定する区分所有者の団体をいう。以下同じ。)の規約は、マンション標準管理規約(単棟型)(以下「標準管理規約」という。)と同様であり、また、楽器の演奏については、別段の定めはないものとする。

甲マンション401号室の区分所有者Aは、高校生の娘Bが演奏会に向けて深夜までピアノの猛練習をすることを容認していたので、401号室の近くの居住者はその騒音に悩まされている。近隣の居住者からの再三の中止要請にもA及びBは応じず、特に、直下の301号室のCは、その騒音により睡眠障害になり、通院を余儀なくされ仕事も休まざるを得ない状況となった。
ある日、Cが理事長Dに事情を説明して「理事会で解決して欲しい。」と頼んだところ、Dは、理事会で協議し、AとBの実名を挙げて騒音行為を具体的に列挙し、今後の対応として、「”一切の楽器の演奏を禁止する。”との細則を理事会で定めた。」旨の文書を作成して、全住戸へ配布し、掲示板に掲示した。
それを知ったAは理事会の会議中に押し入り、「AとBの実名を挙げて名誉を段損したことについて、全住戸へ謝罪文書を配布しろ。」と要求したが、出席していた理事数名から逆になじられたことに激昂し、Aはそれらの理事に暴行を働いた。
その後、Aは、理事長や理事らをひぼう中傷する内容の文書の配布や貼付を繰り返し、また、マンション管理業者の業務を妨害するなどしている。これらのAの行為は、単なる役員個人に対するひぼう中傷の域を超えるもので、同行為により役員に就任しようとする者がいなくなる等それにより管理組合の業務の遂行や運営に支障が生ずるなどしてマンションの正常な管理又は使用が阻害される状況となっている。

1 Cは、A及びBに対して不法行為に基づく損害賠償を請求することができる。

2 「一切の楽器の演奏を禁止する。」との細則は、無効である。

3 Aの理事に対する暴行について、名誉殴損に対する正当防衛は成立しない。

4 Aが理事会へ押し入ってからの一連の行為は、共同利益背反行為に当たらない。

【解答及び解説】

【問 3】 正解 4

1 正しい。Cは、その騒音により睡眠障害になり、通院を余儀なくされ仕事も休まざるを得ない状況となっているので、不法行為に基づく損害賠償を請求することができる。
*民法709条

2 正しい。区分所有者は共同の利益に反する行為は禁止されるので、他の区分所有者の共同利益に反する行為は、使用細則などで規制されても仕方がないが、「一切の楽器の演奏を禁止する。」は他の区分所有者の共同の利益に反するかどうかを問わず一律禁止しているので、無効であると考えられる。また、使用細則は、総会の決議事項であり、理事会の決議だけで使用細則を定めることはできず、この意味でも当該細則は無効である。
*区分所有法31条1項参照

3 正しい。他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、正当防衛として損害賠償の責任を負わない。Aの理事に対する暴行は、理事会の会議中に押し入り、理事数名から逆になじられたことに激昂したものであり、「やむを得ず」加害行為をしたとはいえず、正当防衛は成立しない。
*民法720条1項

4 誤り。「建物の保存に有害な行為その他建物の「管理又は使用」に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」は共同利益背反行為として禁止されるが、Aの行為は、マンションの正常な「管理又は使用」が阻害される状況になっているので、共同利益背反行為に該当する。
*区分所有法6条1項