下記の問題及び解説は、必ずしも現時点における法改正及びデータを反映したものではない場合があります。

管理業務主任者 過去問解説 令和3年 問39

【動画解説】法律 辻説法

【問 39】 次の記述のうち、判例によれば、適切なものはいくつあるか。

ア 特定の専有部分の排水を階下の専有部分の天井裏の枝管を通じて排水する場合、その枝管は、その構造及び設置場所に照らし、専有部分に属しない建物の附属物に当たり、区分所有者全員の共用部分と解される。

イ 区分所有者の全員又は管理組合法人が、共同利益背反行為をした賃借人に係る賃貸借契約を解除し、賃借人に対し、当該専有部分の引渡しを求める集会決議をするには、あらかじめ、賃貸人たる区分所有者及び当該賃借人に対し、弁明の機会を与えなければならない。

ウ 管理組合は、区分所有者全員の共有に属する敷地につき、一部の区分所有者に係る駐車場専用使用料の増額について、その必要性及び合理性が認められ、かつ、その増額された額が社会通念上相当な額であると認められる場合には、規約又は集会決議をもって、その専用使用権者の承諾を得ることなく増額を決することができる。

エ 政党ビラの配布行為は、憲法21条1項で保障されている表現の自由の行使に該当することから、マンションの各住戸のポストへの政党ビラの投函のために各階の廊下等に立ち入る行為が住居侵入罪(刑法130条)に該当することはない。

1 一つ
2 二つ
3 三つ
4 四つ

【解答及び解説】

【問 39】 正解 2

ア 適切。特定の専有部分の排水を階下の専有部分の天井裏の枝管を通じて排水する場合、本件排水管は、その構造及び設置場所に照らし、建物の区分所有等に関する法律2条4項にいう専有部分に属しない建物の附属物に当たり、かつ、区分所有者全員の共用部分に当たると解するのが相当である(最判平成12年3月21日)。
*区分所有法2条4項

イ 不適切。区分所有者の全員又は管理組合法人が建物の区分所有等に関する法律60条1項に基づき、占有者が占有する専有部分の使用又は収益を目的とする契約の解除及びその専有部分の引渡しを請求する訴えを提起する前提として、集会の決議をするには、同条2項によって準用される同法58条3項によりあらかじめ当該占有者に対して弁明する機会を与えれば足り、当該占有者に対し右契約に基づき右専有部分の使用、収益をさせている区分所有者に対して弁明する機会を与えることを要しないというべきである(最判昭和62年7月17日)。
*区分所有法60条2項

ウ 適切。法31条1項後段は、「規約の設定、変更は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と定めているところ、使用料の増額についていえば、使用料の増額は一般的に専用使用権に不利益を及ぼすものであるが、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は使用料の増額を受忍すべきであり、使用料の増額に関する規約の設定、変更等は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである。
*区分所有法31条1項

エ 不適切。憲法21条1項も、表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであって、たとえ思想を外部に発表するための手段であっても、その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されないというべきである(最判平成21年11月30日)。

以上より、適切なものは、ア及びウの2つであり、正解は肢2となる。


【解法のテクニック】本問は、判例の内容を問うものであり、かつ、個数問題ですから、難しかったかもしれません。ただ、ア~ウは区分所有法のテキストにはよく載っている判例ですから、できて欲しい問題です。問題はエですが、「住居侵入罪に該当することはない」と言い切っているのはおかしいと気づいて欲しいところです。確かに、表現の自由はありますが、どんなやり方でもいいとはいえないでしょう。エのように「~の場合はない」という、例外を認めないような断定的な表現は、「誤り」であることが圧倒的に多いということは、覚えておいていいと思います。