第三者
【解説】
この「第三者」というのは、宅建のテキスト、過去問等に本当によく出てきます。
この第三者の意味は、「当事者及び包括承継人以外の者」と定義されるのが普通です。したがって、第三者に対比される言葉は、「当事者」ということになります。
包括承継人(一般承継人ともいう。同じ意味。)というのは、典型的には相続人のような場合で、相続人というのは、被相続人(死んだ人)の「一切の権利義務を承継する」(民法896条)ので、被相続人の地位をそのまま受け継ぐことになり、「当事者」と同視されます。
この「第三者」が最も典型的に使われる場合の一つは、不動産の二重譲渡の場合ではないでしょうか。
民法177条では、「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」と規定されています。
「物権の得喪及び変更」というのは、難しい表現ですが、ここでは一番典型的な「所有権の移転」と考えてもらえばいいでしょう。
この条文は、不動産の二重譲渡では、売買契約が締結された順序ではなく、登記を先に備えた方が所有権を取得する、という意味になります。
たとえば、Aがその所有の不動産について、Bと売買契約を締結したとします。
このような場合には、Bは売買契約を締結しただけで安心してはダメで、すぐに登記を備えておく必要があります。
Bが未登記の状態で(すなわち、A名義の登記が残っている状態で)、AがさらにCに対して当該不動産を二重譲渡した上で、Cが先に登記を備えれば、売買契約はBの方が先であるにもかかわらず、Cが当該不動産の所有権を取得することになります。
これが先ほどの民法177条の意味です。
このような状態を、民法は「登記をしなければ、『第三者』に対抗できない」と表現しているわけです。
つまり、AB間で先に売買契約がなされていますが、このABが売買契約の「当事者」です。このようにAB間で売買契約を締結しても、Bが未登記であれば、当事者であるA・B以外の第三者(Cのこと)に所有権の取得を対抗できない、という意味になるわけです。
では、条文では、なぜ「登記を先に備えた方が優先する」というような表現ではなく、「登記がないと第三者に対抗できない」という表現を使っているのでしょうか?
もし、BだけではなくCも未登記だったとします。この場合の結論は、両者とも登記を備えていない以上、どちらも所有権を主張することはできません。
したがって、このままの状態で、BがCに対して不動産の所有権を主張して裁判を起こしても、裁判所はB敗訴の判決を下すことになります。逆に、CがBを訴えても、C敗訴の判決になります。
それは、「登記をしなければ第三者に対抗できない」からです。Bは登記を備えていないので、Cに対して所有権を主張することができず敗訴。Cも登記を備えていないので、Bに対して所有権を主張できず敗訴。
条文の表現の方が、このような事態をより的確に表現できているからではないかと思います。
その他に、宅建でおなじみの論点として、詐欺等の意思表示の場合に出てくる「第三者」というのもあります。
AからBへ不動産の売買契約がなされたが、そのAの意思表示がBの詐欺によるものであった場合、Aは売買契約を取り消すことができますが、Aが売買契約を取り消そうとしたときには、当該不動産がすでにCに転売されていた場合、「詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない」(民法96条3項)ことになります。
この場合、詐欺による売買契約の当事者は、AとBです。したがって、それ以外のCは「第三者」ということになります。そこで、第三者Cが善意であれば、Aは売買契約の取消をCに対抗することができず、Aは不動産を取り戻すことができず、不動産はCの所有になります。