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消費者契約法11条(他の法律の適用)

【解説】

1.消費契約法と民法・商法の関係(第1項)

本条は、消費契約法と他の法律の適用関係に規定しています。そのうち、第1項では消費契約法と民法・商法との関係について規定されています。

そして、第1項については、次の3つの内容を定めていると考えられています。

まず、消費契約法に規定がある事項について、消費契約法の規定と民法・商法の規定が抵触する場合には、消費契約法の規定が適用されます。
消費契約法は、消費者と事業者の間の消費者契約が対象となるのに対し、民法・商法では契約の当事者にこのような限定はないので、民法・商法が一般法と、消費契約法が特別法と考えられ、特別法である消費契約法の規定が優先して適用されます。
たとえば、取消権の行使期間について民法126条では「追認をすることができる時から5年、行為の時から20年」とされているのに対し、消費契約法7条では「追認をすることができる時から六箇月、消費者契約の締結の時から5年」とされており、消費契約法7条の方が優先して適用されます。

このように、民法・商法と消費契約法を、一般法・特別法という考え方を強調すると、民法・商法上の権利が行使できなくなるという懸念があったようで、消費契約法に規定がある事項について、消費契約法の規定と民法・商法の規定が矛盾しない場合において、両方の要件を同時に満たすようなときは、両者の優先関係はなく、契約当事者はいずれの規定の適用も主張することができると考えられています。
たとえば、消費契約法4条1項(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)の規定と、民法96条(詐欺又は強迫)の規定の両方の要件を満たす場合には、当事者はどちらの規定の適用を主張することができます。消費契約法6条は、4条3項から3項までの規定は、民法96条の規定の適用を妨げるものと解してはならない旨を規定しているが、これは上記の内容を確認的に規定したものと考えられます。
また、消費契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)と民法90条(公序良俗)の規定の関係も同じです。

次に、消費契約法に規定がない事項については、補充的に民法・商法が適用されます。
たとえば、取消に関する規定として下記のものがあります。

  • 民法120条(取消権者)
  • 民法121条(取消しの効果)
  • 民法122条(取り消すことができる行為の追認)
  • 民法123条(取消し及び追認の方法)
  • 民法124条(追認の要件)
  • 民法125条(法定追認)

他に、消費者契約の条項の効力に関する規定の例としては、下記のものがあります。

  • 民法572条(担保責任を負わない旨の特約~売買)
  • 民法640条(担保責任を負わない旨の特約~請負)
  • 商法739条(免責約款の制限)

2.消費契約法と個別法との適用関係(第2項)

第2項は、消費契約法と民法・商法以外の私法(以下、「個別法」という。)との適用関係についての規定です。
第2項によると、この場合個別法の規定による旨が規定されています。消費契約法は、業種や業態を問わず、消費者契約にはすべて適用されるものであるのに対し、個別法は、個別業者の取引の実情や特殊性を考慮して規定されているからです。
ただし、消費契約法は、消費者契約における基本的なルールを定めているものですから、消費契約法の規定を後退されるような個別法の規定を優先させるべきではありません。

そこで、個々の条項ごとに判断して、個別法の規定が、消費者契約に優先させるべき合理性があるかどうかで、個別法の適用の受けを決めるべきであるとされています。
したがって、第2項は「原則として」個別法の規定が優先する、という意味になると考えられます。