消費者契約法8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)

【解説】

1.総論

現在の消費者取引は、大量・迅速かつ画一的に行われています。そのため、契約内容は事業者が定める約款等で定められており、消費者が個別に交渉する余地はありません。
そして、約款等は事業者が定めるので事業者に有利なものになります。そこで、本来ならば事業者が損害賠償を負わなければならないような場合でも、損害賠償の免除の条項が定められています。
このような場合でも、消費者はそのような条項を知らないか、知っていてもそれらの条項を削除しないで契約しているのが普通です。

本条では、このような損害賠償の免除条項を無効とするものです。

具体的には、債務不履行責任の免除又は制限は第1項1号・2号で、不法行為責任の免除又は制限は第1項3号・4号で、瑕疵担保責任の免除は第1項5号・第2項で、その効力を否定しています。

2.債務不履行による損害賠償責任を免除する条項(第1項1号・2号)

第1項の第1号と第2号は「債務不履行による損害賠償責任を免除する条項」を無効とする規定です。

なお、ここでは債務不履行による「損害賠償責任」を免除する条項について規定されていますが、その他の保管義務や原状回復義務等を排除する条項は対象となっていませんが、それらの義務の排除条項は第10条の対象となります。

(1)損害賠償責任の全部を免除する条項(第1号)

債務不履行責任のうちでも、その損害賠償責任の「全部」を免除する条項を無効としたのが第1号です。

「全部を免除する」というのは、事業者が損害賠償請求を一切負わないとする条項です。

事業者の損害賠償責任を一定の限度に制限し、一部のみ損害賠償請求を負うという一部免除の条項(たとえば、通常損害のみ損害賠償責任を負い,特別損害については負わない)は本号の対象ではなく、第2号に規定されています。

(2) 損害賠償責任の一部を免除する条項(第2号)

債務不履行責任のうちでも、その損害賠償責任の「一部」を免除する条項を無効としたのが第2号です。

この場合は、損害賠償責任の全部を免除する条項の場合と異なり、事業者の提供する商品やサービスの内容によっては、損害額が通常予想されるものより過大になる場合もありますので、このような場合にある程度の免責をしたり、賠償の範囲を通常予想される範囲に限定することに合理性がある場合もあります。
したがって、損害賠償責任の一部を免除する条項も認めつつも、事業者に故意又は重大な過失がある場合には、事業者の帰責性が大きく、消費者の不利益のもとに事業者を保護する合理性はないので、損害賠償責任の一部を免除する条項も無効としています。

具体的に、損害賠償責任の一部を免除する条項とは、航空運送約款における「当社が賠償の責任を負う場合の賠償額は、旅客1名につき600万円を限度とし、手荷物、装着品について生じた滅失穀損等に対し、当社が賠償の責を負う場合の賠償額は、旅客1名につき15万円を限度とする」(東京地判昭53.9.20)、「当ホテルは、宿泊客が持ち込んだ物品又は現金ならびに貴重品であってフロントに預けなかったものについて、滅失・毀損等の損害が生じたときは、宿泊客からあらかじめ種類および価格の申告のなかった場合には、30万円を限度としてその損害を賠償する」(最判平15.2.28)という条項などです。

そして、損害賠償責任の一部を免除する条項が「無効」になるわけですから、全額の損害賠償請求を負うことになります。

3.不法行為による損害賠償責任を免除する条項(第1項3号・4号)

第1項の第3号と第4号は、債務不履行による損害賠償請求と同様に、不法行為による損害賠償請求についても、その全部又は一部を免除する条項について無効とするものです。一部を免除する条項については事業者の故意・過失によるもののみ無効としています。

4.瑕疵担保責任による損害賠償責任の全部を免除する条項(第1項5号)

(1) 瑕疵担保責任による損害賠償責任の全部を免除する条項(第1項5号)

民法570条では、売買契約の目的物に隠れた瑕疵があった場合に、買主が解除又は損害賠償を請求できる旨を規定しており、この規定は民法559条により有償契約全般に準用されています。また、民法634条では請負契約において、仕事の目的物に瑕疵がある場合に注文者に解除、損害賠償又は瑕疵修補請求を認めています。しかし、これらの規定は任意規定とされ、損害賠償請求責任を全部免除する特約も有効だとされています。
しかし、消費者契約においては、消費者の保護の観点から、損害賠償責任の全部を免除する条項の効力を否定したのが本条です。

なお、本条は損害賠償責任の「一部」を免除する条項について規定していないが、その場合は第10条の適用が問題となります。

(2) 例外(第2項)

第2項は、第1項5号で瑕疵担保責任による損害賠償請求の全部を免除する条項が無効とされている点について、例外的に事業者が「瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は当該瑕疵を修補する責任を負う」場合には、このような全部免除の条項も有効としています。

この「瑕疵のない物をもってこれに代える責任」の「瑕疵のない物」というのは、消費者契約の趣旨・目的、社会通念によって決するしかありません。物の個性に着目した特定物売買においては、単なる代替給付では「瑕疵のない物」に該当しないことがあるでしょう。たとえば、ペットの売買における代犬等の給付は、契約時に物の個性に着目するでしょうし、いったん購入すればペットの個性が決定的に重要になるので、亡くなったペットと同種のペットの給付だけでは「瑕疵のない物」の給付といえないことが多いでしょう。

次に、第2号ですが、ちょっと複雑な文言になっていると思いますが、消費者が、事業者(A)から委託を受けた「他の事業者(B)」が損害賠償責任の全部又は一部を負ったり、瑕疵のない物を給付したり、瑕疵の修補をするのであれば、消費者・事業者(A)間の瑕疵担保責任による損害賠償請求の全部を免除する条項も有効だということです。
つまり、第1号は事業者(A)が代替物の給付等をする場合、第2号は他の事業者(B)が代替物の給付等をする場合の話です。

最後に、この第8条の条文の全体をまとめておきましょう。